オーヴェとパルネヴァの母子 (C)Tre Vanner Produktion AB. All rights reserved.
オーヴェとパルネヴァの母子 (C)Tre Vanner Produktion AB. All rights reserved.

半年前に妻を亡くして孤独な生活を送っている頑固で頑固で律義者の老人が、幾度も自殺を試みても引っ越してきたばかりの外国人家族のお節介や教師だった妻の教え子、認知症の夫を抱える隣人など周囲との関りで失敗ばかり。だが、自殺を試みる旅に回想される亡き妻との出会いと幸せだった結婚生活。周囲の者たちの騒動に巻き込まれながらも、放っておけない心根の優しい性格。人生は独りで送るものではない。愛する者を亡くし、孤独の淵に立たされているようなときにも、自分を見てくれている人、必要としてくれる人が存在していることを独特のユーモアで思い起こさせてくれる。

*H・ホルム監督インタビュー記事は下記URL*
http://クリスチャン新聞.com/?p=13165

【あらすじ】
59歳のオーヴェ(ロルフ・ラスゴード)は、父親の代から鉄道員一筋に生きてきた。スウェーデン人ならサーブ以外の車には乗るなという頑固者。しかも気むずかしくて寡黙な性格。決まった時間に町内を見回り、飼い犬の粗相の後始末や走行違反の車などには決まりごとの筋を通す律義者。それが、半年前に最愛の妻ソーニャ(イーダ・エングヴォル)を亡くしばかりで、意気消沈の日々。毎朝ソーニャのお墓に行っては、「早くお前の傍に逝きたい」とつぶやきながら花を飾り、日々の出来事を語りかける。だが、まだ鉄道局のエンジニアとしての責務がある。

ある日、43年間勤めて定年間際のオーヴェに、鉄道局の人事担当が解雇を告げた。だが、オーヴェは落ち込むどころか、仕事の責務から解放されてようやくソーニャの傍に逝けると、内心喜んだ。さっそく、居間の天井にロープを掛けて首つり自殺しようとしたとき、向かいの家にペルシャ人のパルネヴァの一家が引っ越してきた。夫のおぼつかいない運転で、自宅の郵便受けをぶつけられたオーヴェは自殺するどころではなくなった。放っておけない性格のオーヴェは、車庫入れを手伝った。翌日、その家の妻で2児の母親パルネヴァが、お礼にと料理を入れた鍋を持ってきた。仏頂面で応対するオーヴェにお構いなく、パルネヴァ(バハー・パール)は人懐っこく接してくる。

数日後、ガレージで車の排気ガス自殺を決行するオーヴェ。次第に意識がもうろうそしていくなかで、子ども時代の父とのこと、ソーニャと列車の中で出会って恋をし、幸せな結婚生活の日々の思い出が次々浮かんでくる。ようやくソーニャのところへ逝ける…。と、激しくガレージの戸を叩きパルネヴァが「夫がケガしたから助けて」と大声で叫び続ける。なにやかやとパルネヴァの家族の面倒ごとに巻き込まれるオーヴェ。2人の娘たちも、オヴェに絵本を読んでくれとせがんでくる。この隣人がいて、オーヴェは自殺できるのだろうか…。

幾度も自殺を試みるごとに、もうろうとするなかで先だった妻ソーニャとの佳き結婚生活の日々が思い出されるオ^ヴェ。 (C)Tre Vanner Produktion AB. All rights reserved.
幾度も自殺を試みるごとに、もうろうとするなかで先だった妻ソーニャとの佳き結婚生活の日々が思い出されるオ^ヴェ。 (C)Tre Vanner Produktion AB. All rights reserved.

【みどころ・エピソード】
“昔気質(むかしかたぎ)で頑固者”の老人オーヴェの意固地だが放っておけない人柄は、“昭和のご町内”にも「いたいた」と懐かしい顔が思い浮かんでくような憎めなお魅力がある。言い訳などには耳も貸さずに筋を通す。特にや役人風を吹かすような公務員には容赦ない。それでいて、困っている人の相談にはブツブツ言いながらもできることは懸命に手助けする人の良さ。そこから醸し出される価値観の食い違いや言葉のやり取りの妙が、なんともいえない可笑しさを味わわせてくれる。

自分の考えを押し通そうとするものの言い方の不器用さは、シャイな心持の裏返しか。そんなオーヴェのすべてを受け入れて結婚し、オーヴェの人生を励ます回想物語の妻ソーニャが、なんとも理想的な女性として描かれている。だが、嫌味はない。結婚生活の華のあるエピソードが描かれているのだけに、ともに生きることの喜びと大切さがソーニャの素晴らしい笑顔とともに印象的。原作が幅広い年齢層から支持されベストセラーになった要因も青春時代の素晴らしい愛情と結婚生活の描写にあるのだろう。

余談だが、パルネヴァの子どもたちが猫アレルギーのため、迷い込んできたブルーアイズのラグドールを“居候”としてオーヴェが面倒を見ることになるのだが、なんとも毛並みの美しい猫。初めは迷惑がったオーヴェが、いつのまにかソーニャの墓にも抱いて行き、次第に癒されている感じにも和まされます。 【遠山清一】

監督:ハンネス・ホルム 2015年/スウェーデン/116分/原題:En man som heter Ove 配給:アンプラグド 2016年12月17日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、名古屋・名演小劇場ほか全国順次公開。
公式サイト http://hitori-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/hitori.movie/

*AWARD*
2016年:ゴールデン・ビートル賞(スウェーデン・アカデミー賞)主演男優賞・メイクアップ賞・観客賞受賞。シアトル国際映画祭主演男優賞(ロルフ・ラスゴード)受賞。カブール・ロマンチック映画祭観客賞受賞。トラバースシティ映画祭観客賞受賞作品。