©PFFパートナーズ
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会話が少なくても幸せは分かり合えているもの。そう思っていた。だが、言葉が少なくなり、会話が単語のやり取りのなっているとき、いつしか笑顔が消えている。自分は、この家族の中に存在を認識されているのだろうか。心のつながりを確かめ合えない’家庭内行方不明者’のような空気感。どこか思い当たる家族の心象風景があり、家族のつながりへの気づきを語りかけてくる作品だ。

東京の郊外、家が立ち並ぶ新興住宅地。妻・路子(南果歩)は、朝一番で洗濯を済ませ朝食の準備に。テーブルにも花を飾り、ランチョンマットもきちんと整えて敷く。だが、楽しそうな笑顔はなく、どこか無表情な面持ちに不安感さえ漂っている。そこに座るはずの夫・健一(田口トモロヲ)は、朝帰りでそそくさと着替えて、会社へと出かけていく。大学は出たが就職できずフリーターをしている息子・宏明(郭智博)もアルバイト先から朝帰りで、用意された朝食を食べもせず二階へ上がる。

健一は、退社すると行きつけの喫茶店で夜遅くまで時間をつぶしてから帰宅する。健一にも宏明にも関心を持たれていない孤独感を抱きながら、家事を潔癖なまでにこなしていく路子。

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その路子に少しずつ変化が見えてきた。宏明の友人の母親から勧められるまま、大きなウォータークーラーを買い、宏明になじられる。スーパーで弁当を買いあさり一気に食べつくす。何かに追われていくような路子の表情の変化、リビングの入り口に立つウォータークーラーの異様な存在感と日ごとに濁っていく水の色の変化。

路子の行動や次第に変化していく家の様子をハンディカメラで追いかけていくような映像は、ある種サスペンスのような緊張感へと引き込まれていく。そして、ある日、路子の心の中のなにかが途切れた。それを感じ取った健一と宏明がとった行動は。。。
家族に関心が持たれていない寂寥感とどうにもならない焦燥感。路子、健一、宏明それぞれを演じるの役者の立ち居振る舞いに、思わずその一人に身を置いて家族の風景を見つめ、考えさせられていく。

明確な応えは描かれていない。家族であっても心はどこか漂流しているような現代の一断層。それだけに、夜がしらんでいくなかに浮かぶ家族のシーンから、この家族の明日への光を感じ取りたい。 【遠山清一】

監督・脚本:吉田光希、2010年/日本/90分/英題:HOUSEHOLD X 配給:ユーロスペース+ぴあ、9月27日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。

公式サイト http://kazoku-x.com