Movie「ウィンターズ・ボーン」――へこたれてなんかいられない!
洗練された都会的な社会環境の中で、自分の人生を切り開くイメージとは異なるもう一つのアメリカ。冬のように厳しい風土の中で連綿と培われている開拓者魂が描かれている。オザーク高原の小さな山村に母親と小さな弟妹を守りながら生きようとする17歳の少女リー。彼女の生きることへのたくましさと魂が、冬のように厳しい風土の中で培われていく。この作品に出演もしているマリデス・シスコとブラックベリー・ウィンターの演奏するゴスペル’Farther Along’やブルーグラスのスタンダードな挿入曲が、先の見えない闇のような状況に在ってもプライドを持って生きようとするリーを優しく励ましているようで心に沁みいる。
アメリカ中西部に広がるオザーク山脈の山奥に住むリー・ドリー(ジェニファー・ローレンス)はまだ17歳。父親は、麻薬密売で逮捕され保釈された後の行方が分からない。母親は、心労からか心を病んでいる。まだ幼い弟妹の食事の世話から勉強、リスの狩りの仕方まで教え、いわば一人で家の生活を切り盛りしている。働き手のいないリーたちを見かねて、隣家の主婦ソーニャが時折り食材などを差し入れしてくれるが、物乞いのようなまねはしない。
ある日、町から保安官がやってきた。保釈中で行方不明の父親が、1週間以内に裁判所に出頭しないと保釈金の抵当になっている家と畑・森の土地を没収されるという。父親の兄ティアドロップ(ジョン・ホークス)を訪ね、父親の居場所が分かる手がかりだけでも聞こうとするリー。だが、「弟の居場所は知らないし、お前も捜すな。そのことには関わるな」と言うだけで取り合おうとはしない。父親の元仕事仲間を訪ねても同様に冷たくあしらわれ、追い返される。すると、その土地一帯の顔役ミルトン一族の者から「父親は、覚醒剤の製造所で焼け死んだ」と、いかにも探すのをやめさせようとするような見え見えのうそをつかれる。そして、昔気質で頑固そうな町や村の者たちが、父親の消息をタブー視している過剰な反応に不審を抱くリー。やがて父親は、覚醒剤の関わることで土地の’掟’を破りリンチされたらしいことがわかってくる。
だが、父親を期限までに裁判所に連れて行くか、死亡していることを証明しなければ、この土地から追い出される。リーは、家族を守るため土地の闇の部分にも足を踏み入れ、父親を探し続けるのだが。
薬物漬けのティアドロップや薬物の密造に絡んでいそうな大人たちに、恐怖心を堪えて父親捜しに苦労するリー。自分にできることは自分でやりとおす、プライドと投げ出さない芯の強さに、思わずリーを応援したくなる気持ちにひきこまれていく。逆境にあってもへこたれない少女は、現代のヒーローの一つの姿なのだろう。ジェニファー・ローレンスの演技が、同名の原作のリーに実在感を吹き入れた。
昨年、サンダス映画祭でグランプリと脚本賞を獲得。今年度アカデミー賞では作品賞。主演女優賞(ジェニファー・ローレンス)、助演男優賞(ジョン・ホークス)、脚色賞などにノミネートされている。
監督:デブラ・グラニック 2010年/アメリカ/100分/原題:WINTER’S BONE 配給:ブロードメディア・スタジオ 10月29日(土)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開。