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アメリカを中心として2003年に強行されたイラク戦争(第2次湾岸戦争)は、「ブッシュの戦争」ともいわれた。01年の大統領就任当初から、国連主導の経済制裁に緩みを指摘し、軍備増強の観測を主張。02年にはイラク、イラン、北朝鮮を大量破壊兵器を保有するテロ国家であると非難。そして、大量破壊兵器の廃棄確認の査察拒否に対して「先制的自衛権」の行使として宣戦布告。だが、戦闘終結宣言後にも、大量破壊兵器の存在は確認されなかった。

開戦前に、その大量破壊兵器が存在しないことを調査報告していた元CIA(アメリカ中央情報局)女性エージェント、ヴァレリー・プライム・ウィルソン(ナオミ・ワッツ)と夫でイラク大使代理やガボン大使を務めた元外交官のジョゼフ(ショーン・ペン)。夫のジョゼフが、イラクに核売買の取引の事実がなかったことを新聞に記載したことから、政府はその’事実’を隠すため夫婦を’かっこうの標的’(フェア・ゲーム)に仕立てあげていく。’プライム事件’といわれるその事実の軌跡を、見事に映画化してる

イラク情勢が不穏な中で、「イラクがニジェール産のウランを買い付けた」という情報がCIAにも入る。情報の出所の信頼度は低い。ヴァレリーは、その信憑性を急きょ調査する。また、アフリカ事情に精通している夫のジョゼフも政府の依頼を受け、独自に現地調査する。二人はそれぞれ、イラクには核取引の事実はなく、大量核兵器も「存在しない」との調査結果を報告した。だが、ブッシュ大統領は「イラクは核開発を行っている」と演説で発言し、イラク侵攻を開始した。

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ジョゼフは、イラクの核開発を根拠とする正当性のないことを新聞に寄稿し、世論に訴えた。すると政府筋のリークで「ジョゼフはの妻はCIA諜報員」と報じられ、ヴァレリーの私生活は脅かされ、彼女が諜報活動にかかわってきた諸外国のインテリジェンス・オフィサーたちにも危険が及ぶ。しばらくは沈黙を守っていたヴァレリーだが、くじけずに正論を訴えるジョゼフとともに闘うことを決心する。

政府筋のリーク情報で、マスコミや市民から攻撃の的にされても沈黙を守ろうとした忠誠心と、事実を事実とする正義感の間に弄ばれる苦悩が痛いほどに表現されている。そして、当時の大統領や高官らがまだ存命している中、何が事実だったのかを伝えようとする映画メディアの気合いが伝わってくる。   【遠山清一】

監督:ダグ・リーマン 2010年/アメリカ/108分/原題:Fair Game 配給:ファントム・フィルム/ポニー・キャニオン 10月29日(土)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国順次公開。

公式サイト http://fairgame.jp