©Sixteen Midlands (Oranges) Limited/See-Saw (Oranges) Pty Ltd/Screen Australia/Screen NSW/South Australian Film Corporation 2010
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民主党が「子どもは国の宝」として盛り込んだ「子ども手当」の公約が、変節しつつある。’子どもは年金や国の経済のために生まれて来るのではない’という反論が聞こえてきそうだが、法案説明やマニフェストには子どもの人生を優先する’ファースト・チェルドレン’の視点からという一文が注意深く添えられていた。

国や自治体が子どもを利用するような方針や行政の施策には、憤りを超えて深い悲しみを覚えさせられる。英国で実際にあったそのような’ロスト・チェルドレン’をテーマに描いたこの作品には、自分の出生という存在の原点を奪われた深い悲しみに、寄り添い共に歩んで行く人がいることのカタルシスを覚えさせられる。

英国ノッティンガムでソーシャルワーカーの仕事をしているマーガレット・ハンフリーズ(エミリー・ワトソン)は、夫と幼い二人の子どもたちと4人で暮らしている。担当している養子に出された人たち支援するトライアングル会を終えると、オーストラリアから来たという中年女性シャーロットが、「自分は誰なのか、調べてほしい」と悲痛な面持ちで頼み込んできた。彼女は児童養護施設に居た4歳の時に、ほかの数百人の子どもたちと一緒に船に乗せられオーストラリアへ連れられて行かれたと訴える。にわかには信じがたく、話しが呑み込めないマーガレット。

だが、1週間後のトライアングル会で参加者の一人ニッキーが、「だぶん僕は、あなたの弟です」との手紙をオーストラリアに居るジャックから届いたと話す。ジャックも幼い時にオーストラリアへ連れて行かれたという。シャロンの話しとどこかつながり、気になったマーガレットはシャーロットの出生の記録を調べ始め、ほどなくシャーロットは「死んだ」と聞かされていた実の母親が生きていることが分かり訪ねて行った。そして、ニッキーともいっしょにオーストラリアへジャックを訪ねることにした。そこから、大勢の子どもたちが英国からオーストラリアに連れてこられ、児童養護施設や里子に出されていた事実を知る。そして、成人した彼らの多くが「自分は誰なのか」という誰も答えてくれない疑問で心に大きな空洞を抱えていた。彼らの大きな疑問と悲しみに少しでも応えようと、英国とオーストラリアの記録を調べ、関係者らを尋ね歩いていく。そして次第に、この大規模な児童移民には、政府の機関や慈善事業、教会関係までもが関わっていたことが浮かび上がってくる。。。

©Sixteen Midlands (Oranges) Limited/See-Saw (Oranges) Pty Ltd/Screen Australia/Screen NSW/South Australian Film Corporation 2010
©Sixteen Midlands (Oranges) Limited/See-Saw (Oranges) Pty Ltd/Screen Australia/Screen NSW/South Australian Film Corporation 2010

英国が連邦諸国へ送っていた児童移民は、18世紀末から1970年まで実施されていたという。この作品は、マーガレット・ハンフリーズの著書『からのゆりかご―大英帝国の迷い子たち―』(近代文藝社刊)を原作とし英国とオーストラリアでの実話を元にしている。映画のタイトル「オレンジと太陽」は、ジャックが英国から連れてこられるときに担当官が「ママは死んだ。これから毎日、太陽が輝いていて、毎日オレンジをもいで食べられる国に行こう」と説得した言葉からとられている。だが、実態は異なり奴隷のような生活、児童虐待や性的暴力などを受け心に深い傷を負わされた。その加害に連なっていた施設や教会関係の人たち。辛く悲しい事実だが、過ちの追及を目指すより成人した’大英帝国の迷い子たち’にどういう存在であるのがよいのか。オーストラリアと英国政府の公式の謝罪の後も、マーガレットは「自分は誰なのか」を失わされた人たちにアイデンティティを取り戻す働きを続けている。 【遠山清一】

監督:ジム・ローチ 2010年/イギリス=オーストラリア/106分/原題:Orange and Sunshine 配給:ムヴィオラ 2012年4月14日(土)より岩波ホールほか全国順次公開

公式サイト:http://oranges-movie.com