Movie「星の旅人たち」――人生は選ぶものか、ただ生きるだけか
フランシス・ベーコンの言葉に「人生は道路のようなものだ。一番の近道は、たいてい一番悪い道だ」というのがある。人生は道、旅などとよく譬えられる。人生観について考え方が違う父親と息子。その息子が巡礼の旅先で突然亡くなり、生前にわだかまっていたしこりを解きほぐしていくロードムービー。脚本・監督のエミリオ・エステベスと父親マーティン・シーン父子が、映画でも父子の設定でスペイン西北部サンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼を描きながら互いの敬愛を芳香として醸し出している。
カリフォルニア州ヴェンチュラの眼科医トム・エイブリー(マーティン・シーン)がゴルフ仲間とプレイしているところに、一人息子ダニエル(エミリオ・エステベス)の訃報が国際電話で入った。フランスのサン・ジャン・ピエ・ド・ポーからサンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼に出発し、ピレネー山脈で嵐に遭い不慮の死を遂げたという。戸惑いながらも、スペインへ向かうトム。「世界を見たい」と言い、よく旅行に出かけていたダニエルの最後の旅となった日。空港に送る息子との最後の会話がトムの記憶によみがえる。仕事も人生観も違うトムに「生き方は違うが、私は今の人生を選んだ」と言うトムに、「人は人生を選べない、生きるだけ」と答えたダニエル。
サン・ジャン警察に着きダニエルの亡骸に対面したトム。セバスチャン警部から遺品と大きなリュックを受け取る。800Kmに及ぶサンチャゴへの巡礼を3回も果たし、「’道’は自分探しの旅ですから」と、ダニエルの想いがセバスチャン警部の言葉になったように響いてきたトムは、帰国せずにダニエルを荼毘にし、位牌をリュックに括り付けてそのままサンチャゴへの’道’を歩きだす。
何人、何組もの巡礼者が同じ道を声を掛け合い、励まし合いながら歩いていく。そんな巡礼者たちとはあまり親しく接しなかった。だが、いつしか体重減量のため巡礼しているオランダ人のヨスト(ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン)、禁煙を誓いながらもヘビースモーカーで厭世的なカナダ人女性サラ(デボラ・カーラ・アンガー)、旅行ライターのアイルランド人ジャック(ジェームズ・ネスビット)らと旅のペースが合い、同行するようになる。道標や景色の良い所々で独りたたずんではダニエルの遺灰を撒いていくトム。その様子に築いたヨストたち、ぎくしゃくしながらも次第に心の内が見え隠れし、騒動に巻き込まれながらサンチャゴへの’道’を行くのだが…。
カトリックの巡礼地を往く一つの道に、4人のそれぞれの’道’が描かれていく。トムには、息子のとのわだかまりやその心にふと浸りたい旅でもある。そんなトムの姿を亡きダニエルが見つめ、ときにはトムの傍に寄り添う。その心の絆の描き方に、しだいに引き寄せられていく。「自分の人生を選ぶ」ものなのか、「選べない、生きるだけ」のものなのか。ここに描かれている4本の’道’に、自分の’道’を思い返しながら自分の答えを見つけてみたい。 【遠山清一】
脚本・監督:エミリオ・エステベス 2010年/アメリカ=スペイン/128分/原題:The Way 配給:アルバトロス・フィルム 2012年6月2日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開