©2012 NY GALS FILMS
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もし、自分の親がアルツイハイマー型認知症になったら…。実の親に誰か見知らぬ人と間違われて自分の子ども時代の話を聞かされる寂しさや、誰かが傍でいつも気を配る必要がある心労の恐れなど。現在、患者数が220万人を超えたと言われだけに、漠然とした不安感が胸をよぎったりもする。そんな’漠然とした不安’に、このドキュメンタリー作品は「そうなったら、なったで相手に合わせて気楽に前をみつめていきましょう」とエールを送っている。

本作の監督でもあるドキュメンタリー作家の関口祐加さんのお母さん・ひろこさんが主役。オーストラリアで結婚し、創作活動の拠点にして生活してきた関口監督。ところが2009年、母親のひろこさんがアルツハーマー型認知症に罹り29年ぶりに親元に戻り世話をすることになった。

二階には妹の家族が住んでいて、孫の末娘とひろこさんは屈託なく接していて仲がいい。79歳の誕生日をみんなでお祝いし、ご機嫌だったひろこさんだが、翌日にはもう覚えていない。孫娘にも言われると♪ボケた? ボケた? ボケた?♪と笑いながら歌って煙に巻く。

病院の診察に付き添い、進展する症状についても専門の医師らに取材して状況を理解しようとする関口監督。そのコメントの挿入にも気づきと元気をもらえる。

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だが、症状が進展していけば自分一人だけで介護を背負い込むこともできない。行政の福祉課や介護施設へ赴き、必要な手助けをアドバイスをもらいにいく。満足できないところのある介護制度であっても、手助けが必要なことはアピールして実現できるところから手を貸してもらう。介護者の訪問、とりわけイケメン君介護士には相好を崩して喜ぶひろこさん。

しかし、ちょっとした事件もよく起こる。なかでも貯金通帳とハンコが見つからなくなったのには、娘としての関口監督の焦りが伝わってくる。オーストラリアから関口監督の一人息子が、日本に母と’おばあちゃん’を訪ねてやって来た。仲のいい孫の末娘と同い年の12歳。ひろこさんは、オーストラリア来た孫にも何かと気を配っていく。

完成試写会でのトークショーで、関口監督は「しっかり者で、なんでもやり遂げる能力が高かった昔の母よりも、認知症になって、世間体から解放され、気さくで思っていることを言えるようになった母が好き」と答えている。もちろん、いいことばかではないはず。徘徊の心配や下の世話など苦労することも多々あることだろう。それでも「母を恥ずかしいと思ってはいないです。…アルツになったからと言って人生って不幸せがることだろうか。アルツにならないからと言って人生幸せなのだろうか?。自分らしく生きるというところにアルツハイマーがあるのかな」という。「助けて―!ってカミングアウトしてしまうことが大事。周囲の手助けをいただいて、心のつながりとか親子の絆は。娘としてしっかりと」という楽天的にとの勧めが、なにか力をくれる。ふと、マルコ福音書10章13節の幼な子らを指して「神の国はこのような者の国である。」とイエスが語られた言葉を思い出す。

元は動画配信サイトYou Tubuに監督自らが投稿してきた動画を基に、2年半の介護生活と家族の触れ合いを編集した作品。20万アクセスヒットを超える視聴の広がりに、’映画’とせずに’長編動画’と銘打ち、現在進行形を今後のつながりへと進展させていく。そんなメッセージを発信しているかのようだ。一人ぽっちで観ないで、家族でいっしょに観に行きたい。 【遠山清一】

企画・製作・撮影・監督:関口祐加 2012年/日本/93分/ 配給:シグロ 2012年7月14日(土)よりポレポレ東中野、銀座シネパトス、横浜ニューテアトルにてモーニング・ロードショー

公式サイト:http://maiaru.com