©2011 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.
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北朝鮮の突然の軍事侵攻に端を発した朝鮮戦争。1953年7月に休戦ライン(38度線)によって朝鮮半島が南北に分断されて足かけ60年が経つ。さまざまな悲劇を生み、北と南に離散した家族は、そのほとんどが交流できないでいる。家族の絆が断ち切られている厳しい状況を重層低音として奏でられる。断ち切られた家族のか細い糸を繋ぎとめようと、命を懸けて韓国と北朝鮮を行き来する謎の男’プンサンケ’(ユン・ゲサン)。一つであるはずの心を断絶させている国の体制や教育、価値観の違いが、悲喜劇的に描きながら寡黙な祈りとなって響いてくる。

プンサンケ(豊山犬)とは、北朝鮮原産の狩猟用犬種でタバコの品名にもなっている。どんなものでも韓国から境界線を越えて3時間以内に北朝鮮の家族に届ける正体不明の男。38度線から北を望む展望所に書かれた様々な願いの栞から’プンサンケ’が選び、連絡してくる。危険に見合った代償は求めるが、寡黙なため北からの脱北者か南の人間なのかも分からないため、吸っているタバコの銘柄で呼ばれるようになる。

だが、北からの密輸品を届けさせたグループが捕まったことから、韓国の諜報機関も’プンサンケ’の存在を知り、彼をだまして逮捕し、脱北した政府高官の愛人イノク(キム・ギュリ)を南に連れてくるよう命じる。北からイノクを連れてきたが、諜報機関はむしろ’プンサンケ’に疑心を抱く。北から潜入していた諜報員たちは、脱北した政府高官を暗殺すため’プンサンケ’に接触する。しだいに政治的ないざこざに巻き込まれていく’プンサンケ’。疑心暗鬼と策略が入り乱れる中で、同じように巻き込まれていくインクだけは、けれん味のない’プンサンケ’の心の内に気づかされていく。

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ベルリン映画祭銀熊賞、ヴェネツィア国際映画祭、カンヌ国際映画祭など3大映画祭で監督賞を受賞しているキム・ギドク監督が脚本を書いている。離散家族のために命を懸けていても、それを利用しようとする者たち。重要機密をもって北から脱北したものの、贅沢な暮らしや命の保障の不安から猜疑心を強くしていく元高官。北から南に潜伏している諜報員らも北への忠誠を口にしながらも南の経済的な豊さにも浸っていく。そんな北と南の諜報員らを一つの部屋に拉致して闘わせようとするシーンには滑稽さともの悲しさが入り混じる。

スタッフも俳優陣もノーギャランティで参加し、収益が出たら契約に応じて配分するあまり聞かない方式で本作の制作に取り組んだという。「お金はなかったが、どうしても作りたかった」というチョン・ジェホン監督。そうしたスタッフ、俳優たちの熱意は、興行的な成功をもたらしているようだ。エンターテイメントとしての映画は、ラストシーンで声にはならない悲痛な祈りを’プンサンケ’に境界線上で叫ばせている。 【遠山清一】

監督:チョン・ジェホン 2011年/韓国/121分/原題:豊山犬 配給:太秦 2012年8月18日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

公式サイト:http://www.u-picc.com/poongsan/