映画「天使の入江」--“賭け”という宗教に生きる男女
聖書のことばに「急に得た財産は減るが、働いて集める者は、それを増す。」(箴言13章11節)とあるが、経験して十分に分かっていてもやめられないことの一つが賭け事。市営カジノに高価なリゾートホテルでの大人の遊び場を舞台に、賭け事という宗教を糧に生きようとする男女のエキサイティングでファッショナブルな物語。一日にして天国(大儲け)と地獄(大負け)を味わい素寒貧になっても互いのツキを信頼する賭け仲間。その二人は、運命の赤い糸に繋がっていたのだろうか。
シアター・イメージフォーラムを皮切りに全国順次開催される特集「ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語」で日本では初の正式劇場公開。1960年代のまばゆい輝きと情熱へのうつろな誘いへと導く。
【あらすじ】
パリの銀行員ジャン(クロード・マン)は、アンギャンのカジノで儲けた金で新車を買った同僚のキャロン(ポール・ゲール)に誘われて初めて市営カジノへ行く。母親はなく堅実な時計職人の父親(アンリナ・ナシエ)と暮らし、賭け事には関心も示さなかったジャンだが、1時間ほどのルーレットで年収の約半分もの大金を手に入れたのを潮時に帰宅した。だが、それを聞いた父親は、ジャンを家から追い出した。
ちょうど2週間の休暇しをとっていたジャンは、大金をもって旅行支度のままニースのホテルに投宿した。ホテルに着くすぐに“天使の入江”湾畔の“英国人の散歩道”を抜けてカジノに入ったジャンは、アンギャンのカジノでいかさま騒動を起こして出入り禁止を宣告された女性ジャッキー(ジャンヌ・モロー)が、残り少ないチップでルーレットしているのに気が付いた。ジャンの視線に気づいたジャッキーは、ジャンが賭けた「3」に残りのチップを張りヒットした。その次もジャンに乗って張り続けジャッキーは85万フラン、ジャンは90万フランの大勝。だが、夜も嫌がるジャンを無理強いしてカジノへ誘ったジャッキーだが、二人とも大負けしジャッキーは無一文の素寒貧に。しかたなく、ジャンはジャッキーを自分の部屋に泊める。
翌日、友人から借金した金で、またカジノへ行ったジャッキー。案の定、無一文になっているところに探しに来たジャンが賭けに乗ると420万フランもの大勝。二人は賭け事でのパートナーを組み、スポーツカーを買ってモンテカルロへと繰り出す。
賭け事が止められないため離婚し、息子の親権も父親に渡って会うこともできないジャッキー。賭け事は堅実な範囲で興じたいと考えるジャンには、なぜそこまで賭け事にのめりこむのか理解できない。ジャッキーは「賭けは、贅沢と貧困の両方を味わえる。お金のためじゃない。」と答える。そして「賭けの数字は神の思し召し。賭けは宗教と同じよ」と言い放つ。ジャッキーが語る賭け事への情熱は、堅実なジャンが女性と平凡な変化のない日常を暮らすことへの不安から一度は婚約解消した過去の経験を思い起こさせる。“賭け”という宗教に激しい情熱を感じて生きるジャッキーに、愛情を抱き始めたジャンは、賭け事のパートナーから運命の赤い糸に結ばれている女性としてジャッキーを愛し始める…。
【見どころ・エピソード】
“英国人の散歩道”を歩くジャッキーを捉えていたカメラが、しだいに後退撮影しアイリス・インするオープニングは印象的。ギャンブルを止められないジャッキー役のジャンヌ・モローが、たんに病み付きというレベルではなく、贅沢と極貧のタイトロープに生きる情熱のすべてを賭けている疲れと幸福感の入り混じった強烈な妖艶さ。母親はおらず父親と暮らしてきたジャンにとって、ジャッキーの存在は母性と女性の愛を得る幸福への執着でもあったのだろうか。ジャッキー自身、ジャンから身を引こうとする決意が語られるラストは意味深だ。 【遠山清一】
監督:ジャック・ドゥミ 1963年/フランス/85分/モノクロ/原題:La baie des anges 配給:ザジフィルムズ 2017年7月22日(土)~8月18日(金)までシアター・イメージフォーラムにて特集「ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語」ロードショー上映ほか全国順次開催。
公式サイト http://www.zaziefilms.com/demy-varda/program/index.html
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【特集 ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語】
ヌーヴェルヴァーグの2大監督にして夫婦でもあるジャック・ドゥミ(1931年6月5日―1990年10月27日)とアニエス・ヴァルダ(1928年5月30日―)の特集上映が、東京・シアター・イメージフォーラム(7月22日[土]~8月18日[金])ほか大阪シネ・リーブス梅田など全国順次開催さ入れる。
上映作品は、ドゥミの長編デビュー作でヴァルダの監修によって完全修復された「ローラ」(1961年作、監督・脚本:ジャック・ドゥミ、主演:アヌーク・エーメ)、ギャンブルに魅せられた男女のラブストーリー「天使の入江」。二人の女性を同時に愛することに喜びを覚えた男の家庭を見つめた「幸福」(1964年作、監督・脚本:アニエス・ヴァルダ、主演:クロード・ドルオー)。生涯の伴侶ドゥミの創造の源泉を妻アニエスがフィルムに残した「ジャック・ドゥミの少年期」(1991年作、監督・脚本:アニエス・ヴァルダ)。自分は癌かもしれないと恐れるポップシンガーが、診察した医師と会うまでの2時間の真心象風景を描いた「5時から7時までのクレオ」(1961年作、監督・脚本:アニエス・ヴァルダ、主演:コリーヌ・マルシャン)。アニエス・ヴァルダが2015年に製作した「LES 3 BOUTONS」(3つのボタン)などが上映される。
公式サイト http://www.zaziefilms.com/demy-varda/