Movie「世界にひとつのプレイブック」――双極性障害の二人を優しさで見守るプレイブック
妻が自宅で浮気している現場に遭遇し、相手の同僚を怪我させた挙句に双極性障害と診断されて、精神病院に8ヵ月間入院させられて自宅に戻って来たばかりのパット(ブラッドリー・クーパー)。一方、夫を交通事故で亡くしたショックから喪失感と心に深い傷を負っているティファニー(ジェニファー・ローレンス)。
双極性障害をもち近所に住む二人が、互いに欠けているところを埋め合うかのように関係を深めていくラヴストーリー。双極性障害をもつ人の突飛な行動を取り込みながらコメディタッチに展開していくストーリーは王道だが、二人を取り巻く家族や知人たちのパットとティファニーを普通に受け止めていく温かさは効いていて新鮮なヒューマンストーリに仕上げられている。
病院を退院したパットは、妻に訴えられ接近禁止令を受けている。しかも、妻は自宅を売却し出ていったままで、勤めていた高校の教師も解雇された。しかたなく両親の家に同居しているが、「頭と体を鍛えて妻の理想の男になれば、必ずヨリは戻せる」と、なぜか前向きな気持ちと自信にあふれている。
父親のパット・シニア(ロバート・デ・ニーロ)と母親ドロレス(ジャッキー・ウィーヴァー)は、失業したばかりでチーズステーキ店の開店資金を稼ぐため、アメリカン・フットボールのノミ屋を始めた。フィラデルフィア・イーグルスの熱狂的なファンの父親は、試合が始まるとゲン担ぎで一緒に見るように息子のパットを呼びつける。一家の生計がたつかどうかどうかが掛かっているだけに、父親は真剣だ。
パットには、妻の浮気事件以来のトラウマがある。退院の条件であるカウンセリングを受けに行くと、スティーヴィー・ワンダーの「マイ・シェリー・アモール」がMGMで流れていた。自分の結婚式にかけたこの曲が、浮気の現場でも流れていた。とたんに過呼吸になりパニックを引き起こすパット。
そんな、パットを友人の友人のダニー夫妻が夕食に招いてくれた。そこにやって来たダニーの妻の妹ティファニー。夫を交通事故で無くし、やはり心のバランスがどこか壊れている。互いにドラッグや治療薬の話題から不思議と話が合いだした。その帰り道、なんとティファニーは、初対面のパットを自宅に来ないかと誘う。そんな飛んでるティファニーだが、ちゃんと自分を弱さを見つめている。そして、パットに対する批評も的を得ている。
パットは、妻とも知り合いのティファニーに自分がしっかり回復していることを知ってもらうために手紙を妻に渡してもらおうとする。ティファニーは、パットにダンスコンテストにパートナーになって出場することを交換条件にしてきた。双極性障害を抱えた不器用だが真面目な二人の練習が始まった。
パットとティファニーの真剣さゆえにおかしくなる会話や行動。だが、ラッセル監督は、そんな二人の内面的な心理状態まで無作法に入り込もうとはしない。パットと試合の賭けで大損したものを必死に取り戻そうとする父親への対応や周囲の人たちとの絡みなどで、双極性障害に悩みながらもなんとかしようとする生き方から見ている観客に語り掛けてくる演出。パットは見守られることで、どこかいびつだった心棒が回復していくように見える。そんな優しさと希望を与えられて映画館をあとに出来る作品だ。 【遠山清一】
監督:デヴィッド・o・ラッセル 2012年/アメリカ/123分/原題:Silver Linings Playbook 配給:GAGA 2013年2月22日(金)TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ六本木ヒルズ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://playbook.gaga.ne.jp
2013年第85回アカデミー賞主演女優賞(ジェニファー・ローレンス)受賞作品。
2012年第37回トロント国際映画祭観客賞受賞、第70回ゴールデン・グローブ賞主演女優賞受賞作品