©2011 I.B.C. Movie
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ある日突然、勉強を教えている子の母親から「しばらく留守にするので、この子を預かってほしい。実は、あなたの子どもだから、よろしく」と言われたら。。。世の男性陣はかなり戸惑うだろうし、気持ちも重くなる。だが、このハプニングも持ち前のマイペースと前向きさで「まぁ、いいか」(原題の’Scialla!’=シャッラの意)とばかり乗り切ってしまうイタリア的幸福論。コミカルなストーリー展開だが、無責任なおふざけではない。出来事は自分でまいた種の結果、ゴールは見えなくてもなるようになっていく。どうすればいいかわからなくても「シャッラ!」と受け止める。もしかしたら、それは’ゆだねる’ことの極地なのか? そんな気分さえ味わわせてくれる。

元教師のブルーノ(ファブリッツィオ・ベンティボリオ)は、自宅で勉強を教える塾をやりながら著名人の自伝などのゴーストライターをして暮らしている。女優ティナ(バルボラ・ボブローバ)の自伝の仕事でインタビューに行くため、教え子の時間を切り上げて親からクレームが来ても、適当にあしらい気にしない。初老の独身で、呑み屋のツケがたまるほどギリギリ生活だが、自分の楽しい生き方を最優先にしている。

ある日、教え子ルカ(フィリッポ・シッキターノ)の母親マリーナ(アリアンナ・スコメーニャ)が来て、仕事で西アフリカのマリ共和国に半年滞在するため、その間ルカを預かってほしいと頼み込んできた。「なぜ?」と理由を聞くと、ルカは15年前に一晩だけ一緒に過ごした時のブルーノの子どもだからだという。当時のマリーナの写真を見せられ、身に覚えのある記憶がよみがえってきた。

それを知らずにブルーノの家に泊まりに来たルカ。その行動パターンや苦手な食材まで似ていて、ブルーノは複雑な気持ちになる。だが勉強嫌い。学校には教科書を持っていかない。当然、成績は悪く母親不在なためブルーノが学校に呼び出される。落第はさせまいと、しだいにルカの教育にも力が入っていく。はじめはブルーノのお節介さにうんざりしていたが、いっしょに食事し勉強する生活にリズムが出てくると、いつしか家族的な感情も生まれてくる。

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ある日、ルカとつるんでいた悪友が、’詩人’と呼ばれているドラッグ密売のボスの屋敷にルカも連れてきた。そこでほんの出来心のから起きたことが、危険なトラブルになり危険を感じたルカはブルーノに連絡する。

ブルーノには、しがないゴーストライターであっても物書きとして何かを書き残しておきたい夢みたいなものがあるのだろう。どこかボヘミアンな雰囲気が醸しでていた憎めない。ルカも十代半ばの危なっかしさはあっても、ミラノからかかってくる母親の電話には心配させない心根が見え隠れする。いきなり父親を意識させられたブルーノだが、愛情は学習ではない。心から子どもに向き合おうとするブルーノの「シャッラ!」に、お父さんたちは励まされることだろう。 【遠山清一】

監督:フランチェスコ・ブルーニ 2011年/イタリア/95分/原題:Scialla! 2013年4月13日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
公式サイト:http://www.alcine-terran.com/bruno/

2011年ヴェネチア国際映画祭コントロカンボ・イタリアーノ部門受賞、2011年イタリアアカデミー賞ヤング・ダヴィッド賞&新人監督賞受賞、2012年イタリア映画批評家協会賞新人監督賞受賞作品。