インタビュー：ロレーヌ・レヴィさん（映画監督：10月19日公開「もうひとりの息子」）

インタビュー：ロレーヌ・レヴィさん（映画監督：10月19日公開「もうひとりの息子」）――子どもを取り違えられた家族からパレスチナ問題描く

昨年の第25回東京国際映画祭でグランプリと最優秀監督賞を獲得した映画「もうひとりの息子」が、10月19日（土）よりロードショー公開される。同じ病院で出産したイスラエル人とパレスチナ人女性が、空襲警報の中で子どもを取り違えられた。その事が発覚した18年後、隔離壁に隔てられたイスラエルとパレスチナの生活感覚を描きながら人間のアイデンティティとは、家族とはなど普遍的なテーマへと深化していく作品。公開前のプロモーションで来日したロレーヌ・レヴィ監督に話を聞いた。

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日本で得た２つの大きな感動

２組の家族が、取り違えた病院で説明を受ける。イスラエル軍人のアロン大佐とパレスチナ人で自動車修理士のサイード。アロンの妻オリットとサイードの妻ライラの反応は対照的だ。18年間自分の子どもとして育ててきた二人は、互いにハグしてこのむごい状況に直面している苦痛を共有する。アロン大佐の息子として育ったヨセフは、ユダヤ教徒としての成人となったことをバル・ミツヴァも無効とされショックを受ける。イスラエル人を敵として教えられてきたヤシンの戸惑い。だがヨセフとヤシンは互いに監視を抱き、どこか打ち解けた関係を築いていく。そのことにヨセフの兄ビラルは、やり場のない激しい憤りをヤシンに向けていく。
オリットとライラが、この複雑な状況を打開しようと、互いに努力してい母親の姿に引き込まれる。レヴィ監督は「私は、母親の力をほんとうに信じている人間です。母親は、人間の生命の大切さを心底身近に感じながら生きている存在だと思っています」と、その存在感をリアルの描いていく。
アラブ人が住んでいた土地にイスラエルが建国され、国際政治が複雑に絡み、紛争状態が続くパレスチナ問題。その政治的宗教的に微妙な問題を扱う本作が、昨年東京国際映画祭でグランプリと最優秀監督賞を得たことは「私自身とても驚きでした。この映画が複雑なパレスチナ問題を扱う目的ではなく、家族や親子とは何か、紛争を起こしている不条理さと人間の愚かしさという普遍的なテーマを描ていることが強く共有されたのでしょう」。

ダブル受賞から１年。ようやく劇場公開が決まっての来日。その感想を聞くと、「私は、日本から２つの大きな感動をいただけた事を感謝しています。１つは昨年のダブル受賞。もう一つは９月28日に東京港区のユニセフホールでの特別上映会でルツ・カハノフ駐日イスラエル大使とワリード・アリ・シアム駐日パレスチナ大使がいっしょに登壇して、互いに『（イスラエルとパレスチナは）双方は共存でき、愛し合うことも可能だ』と語り愛挨拶し握手を交わしたことです。私は、ほんとうに唯一無二のすばらしい喜びの体験をさせていただきました」。
脚本作りだけでもチームで取り組み３年かかった本作の作品作り。ユダヤ系フランス人のレヴィ監督にとってこの経験は、「スタッフらとともにたくさんの時間と労力を費やしたことへの、ほんとうに素晴らしいご褒美でした。そして、映画には物事を動かすことができるマジカルな力があることを実感しました」という。その言葉どおり、重いテーマを扱っているが、重苦しい感情ではなく、’家族’の絆を芯に慈愛と希望への光を指し示している作品だ。　【遠山清一】

監督：ロレーヌ・レビィ　2012年/フランス/フランス語、ヘブライ語、アラビア語、英語/101分/原題：Le fils de l’Autre、英題：The Other Son　配給：ムヴィオラ　2013年10月19日（土）よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。
公式サイト：http://www.moviola.jp/son/
Facebook：https://www.facebook.com/pages/映画もうひとりの息子/146579238876055

2012年第25回東京国際映画祭東京サクラグランプリ＆監督賞受賞作品。