映画「ある愛へと続く旅」――生まれくる生命への愛と真実
自分の子どもだから愛情を注いで育てることができるのか。たとい自分の子どもでもなくとも子育てすることで人として愛情を注ぎ自らの人間性も育まれていくものなのか。子どもの取り違いや養子縁組をとおしての家族の問題やアイデンティティなどをテーマに据えたいくつもの作品が発表されている。本作は、若く恋に燃えた男女二人の生き様を描きながらミステリアスに、そしてドラマチックに深く問いかけてくる秀作。主演ジェンマ役のペネロペ・クルスがはつらつとした20代から母としてキャリを持ち自律した40代後半までの女性を演じる気魄に引き込まれていく。
ローマで暮らすジェンマ（ペネロペ・クルス）は、サラエボに留学していた時からの友人ゴイコ（アドナン・ハスコビッチ）からの電話を受ける。かつての夫ディエゴ（エミール・ハーシュ）の写真展をサラエボで開くので来ないかという誘い。現在の夫の了解を得て16歳の息子ピエトロ（ピエトロ・カステリット）とサラエボに向かうジェンマ。
80年代、冬季オリンピック開催前に華やぐのサラエボ。この町にローマから留学している女子大生ジェンマは、友人のゴイコからアメリカ人ディエゴ（エミール・ハーシュ）を紹介され、二人は恋に落ちる。学生時代には時の区切りがある。それぞれの国に帰った二人。だが、しばらく時が過ぎてフリーカメラマンになったディエゴは、オートバイを駆ってジェンマの自宅を訪ねてきた。
ローマで結婚し、商業カメラマンの仕事に就いたディエゴ。愛する夫の子どもを産んで育てたいと強く願うジェンマ。だが、二人の間には出産は難しい厳しい現実が判明する。愕然とする二人。ジェンマは、代理母を探してディエゴの子どもを育てたいと決心する。イタリアでは適わないこの計画を、サラエボでロックミュージシャンに憧れるアスカ（サーデット・アクソイ）に託す。
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が勃発。二人の出会いの町サラエボにも戦火が広がると、ジェンマへの愛情は変わっていないディエゴだが、旧友への気がかりとフリーカメラマンへの情熱を抑えきれずサラエボへと向かう。しばらくしてジェンマもディエゴを追ってサラエボに向かう。そこには、身重になったアスカを気遣うディエゴの姿があった。
現在と80年代、90年代のジェンマの人生を縦糸に、それぞれの時代のエピソードが複雑に絡み合いながら物語は進んでいく。そうした激しい展開と状況での心情を年齢に応じて演じていくペネロペ・クルスの演技力のすばらしさ、またストリーティリングの妙味は、緊張感のあるミステリーを生み出していく。セルジオ・カステリット監督が妻のマルガレート・マッツァンティーニの同名小説を共同で脚本を書いている。
戦争という人間の罪性と暴力による悲惨の最中でも’善きもの’は起こりうるのか。男女の愛だけではない’ある愛’とは。原題の’この世に生まれる生命’というニュアンスが静かに、深く染み入ってくる作品だ。【遠山清一】
監督：セルジオ・カステリット 2012年/イタリア＝スペイン/イタリア語、英語、ボスニア語/129分/映倫：PG12/原題：Venuto al mondo、英題：Twice Born 配給：コムストック・グループ 2013年11月1日（金）よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。
公式サイト：http://www.aru-ai.com
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