映画「ソウルガールズ」――人種差別の逆境から明日への希望を諦めなかった女性たち
オーストラリアの先住民アボジリニ出身で、1960年代に実在した4人組の女性ソウルユニット’サファイアズ’が、差別と抑圧を受けていた環境から女性ソウルユニットとして成功するまでの物語を映画化。居留地政策やアボジリニに対する差別と抑圧の環境から音楽で成功し、職業と地位を得ようと志した彼女たちのスピリットが、切ない涙をソウルミュージックにのせたエンターテイメントな演出で感動を誘う。
18世紀末にオーストラリア入植してきたイギリスはじめヨーロッパの白人たちに土地を奪われ、狩猟ゲームのように殺害され、19世紀末には’絶滅寸前の人種’に指定さるまで撃滅された先住民アボリジニ。20世紀には居留地域が設けられ差別的な保護に置かれながらも、1964年にようやくオーストラリア国民としての市民権が国民投票によって承認された。作品の冒頭に、そうしたアボリジニの状況がさらりと説明される。
1968年。アボリジニのゲイル(デボラ・メイルマン)、シンシア(ミランダ・タプセル)、ジュリー(ジェシカ・マーボイ)の3人姉妹が町のタレントコンテストに応募して出場する。白人の観客たちは、「何しに来た!ここはあなたたちが来る場所じゃない」と、あからさまに侮蔑的な対応。それでもめげずにマール・はガードのカントリー曲をアカペラでみごとに歌う。司会と伴奏をめんどくさそうにこなしていたデイヴ(クリス・アダウド)が、思わずキーボードでサポートする。だが、結果はどんでもいほど下手な白人に賞金が贈られた。
ゲイルには、コンテストにチャレンジし続ける理由があった。戦地ベトナムのアメリカ軍を慰問するアーティスト公募に合格し、有名になって貧しい生活から脱すること。それを知ったデイブは、プロデューサーを自称しカントリーではなくソウルミュージクでなければ兵士たちには受けないとゲイルたちを説得する。いとこのケイ(シャリ・セベンス)を仲間に引き込み4人ユニット’サファイアズ’が誕生する。
アメリカの黒人が、差別と虐げられた中で、失ったものを取り戻そうと魂から歌うソウルミュージック。ゲイルはそのスピリットを彼女たちに叩き込み、ソウルシンガーへと訓練していく。そして、慰問団のオーデションの当日を迎える。
実際の’サファイアズ’は、2人姉妹といとこたちの編成で、物語では少し脚色されている。だが、ウェイン・ブレア監督自身アボリジナルであり、原作ともいえる舞台「サファイアズ」の初演では主演している。’サファイアズ’を演じた4人も当然アボリジナルで、ゲイル役のデボラ・メイマンはアボリジナル女性として最初にアーストラリア映画協会主演女優賞を受賞した女優。リードヴォーカルのジュリー役を務めたジェシカ・マーボイは、TVオーディション番組「オーストラリアン・アイドル」からスターになったアボリジナル歌手。脚本のトニー・ブリッグスは、ベトナム戦争時にアメリカ軍うを慰問していた母親からサファイアズの実話を聞き、舞台の脚本を執筆した。主要な出演者、スタッフらの’夢を捨てないで、諦めないで’というメッセージとハートが、60年代のソウルミュージックの名曲たちとともに伝わってくる。
実際の’サファイアズ’の4人はその後、アボリジナル・メディカル・サービスやアボリジナル社会の健康福祉、教育のためにパイオニアとして尽力している。 【遠山清一】
監督:ウェイン・ブレア 2012年/オーストラリア/98分/映倫:PG12/原題:The Sapphires 配給:ポニーキャニオン 2014年1月11日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほか全国順次公開。
公式サイト:http://soulgirls.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/pages/ソウルガールズ/1428616694024258?fref=ts
第65回カンヌ国際映画祭正式出品、第37回トロント国際映画祭正式出品、第45回オールトラリア脚本組合賞最優秀脚本賞受賞、第35回デンバー国際映画祭ドラマ部門ピープルズ・チョイス賞受賞、第24回パームスプリングス国際映画祭観客賞受賞作品。