映画「エヴァの告白」――幸せ求めて生きる移民の姉妹に襲う人生の荒波
世界一美しい顔と評されたマリオン・コティヤールを主役に迎え、グレイ監督は彼女をイメージして幸せを求めて生きようとする移民の娘エヴァの物語を書き上げた。ニューヨークの下町、場末の劇場で踊り子に身をやつしても、希望を失わず前を向いて進もうとする生きざまは、切なさだけに終わらない一条の光を感じさせてくれる。
ソビエト・ポーランド戦争が終局を迎えつつある1921年1月。両親を亡くした2人は、自由と幸せを求めて祖国ポーランドを離れ、伯母夫妻がいるアメリカへ渡ってきた。エリス島の移民局で入国審査の手続きを待つエヴァ(マリオン・コティヤール)と妹マグダ(アンジェラ・サラフィン)。だが、不衛生な移民船での長旅でマグダは肺病を患っていることを医師に発見され、隔離病棟に移動させられる。
祖国では英国外交官の看護師だったエヴァは、英語で受け答えが出来るのだが、迎えに来るはずの伯母夫妻は姿を見せず、所持金が足りないため入国を拒否の判定を受けてします。だが、ブルーノ(ホアキン・フェニックス)と名乗る男が、係官に賄賂を握らせてエヴァをフェリーに乗せる。
ブルーノは、移民局とのコネで目を付けた移民の女たちを劇場で踊らせ売春を斡旋する裏社会に生きる男。だが、エヴァの美しさに心奪われたブルーノは、エヴァに躍らせはするが紳士的な振る舞いで接する。しかし、心を許さないエヴァに苛立ち、売春までさせようとする。
妹の治療費が必要なエヴァは、ブルーノの所を逃げ出し自力で伯母夫妻の家を探し当てたが、翌朝には伯母の夫に通報され再び移民局に収監されてしまう。移民局での慰問ショーでは、妹を捜したが見つけられなかったエヴァ。そんなエヴァに出演していた芸人オーランド(ジェレミー・レナー)が、エヴァの美しさに花を一輪差し出して退場していく。
翌朝、身柄を引き取りに来たのはブルーノだった。妹のためにもアメリカで生きていくことを決心したエヴァは、ブルーノの誘いを受け入れて売春に身を落とす。しばらくして、劇場にオーランドが出演した。ブルーノとオーランドは従兄だが、昔のいざこざでブルーノはオーランドを受け入れていない。
オーランドはエヴァに優しく接し、「小鳥にも神の目が注がれている。幸せになる権利は君にもある」と励ます。エヴァに惚れていながら、苦界に陥れたことを心のどこかで苦悩するブルーノだが、2人の親しさは気に障る。
確執を顕わにしていくブールノとオーランド。ただ幸せを求めて生きていこうと願っているだけなのに、自分の身にも周囲にも辛い出来事だけが起こる。エヴァは、ブルーノに許可を得て教会に行き告解室に入る。だが、その物陰に隠れてブルーノはエヴァの告白を盗み聞きしていた。
美しく教養を備えたエヴァは、伯母に「信仰は失わないように」と励まされる。だが、祈っても願っても、自分の身体を売らなければならない状況に追い込まれていく。その陥れている男ブルーノには、馴染めないが恨むこともなく、人間の尊厳を見いだそうとするエヴァ。
邦題は「エヴァの告白」として、陥りたくない罪の道を歩まざるを得ない苦悩と神への祈りにフォーカスを当てている。確かに、ブルーノを愛せないが彼の元を逃げ出すこともできなくなったエヴァの心情と信念は描かれている。
一方で、原題の’移民’には、誰にでも起こり得る、願っても適わない苦汁への道を生きていく決意が表現されている。ラストシーンで、エヴァが得た一つの希望。その見えてきた光でさえ、移民ビザを受けられずに裏社会で生きなければならなかったエヴァには、まだ人生の海の嵐が続きいていて、それでも前向きに生きていくであろうことを確信させてくれる。
【遠山清一】
監督:ジェームズ・グレイ 2013年/アメリカ=フランス/118分/原題:The Immigrant 配給:ギャガ 2014年2月14日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://ewa.gaga.ne.jp
Facebook:https://www.facebook.com/ewa.kokuhaku/