2年前に大学を辞めたものの自分の目的を見いだせないでいるニコ。 © 2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved
2年前に大学を辞めたものの自分の目的を見いだせないでいるニコ。 © 2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved

昭和の懐メロ「一杯のコーヒーから」は、米穀統制令が発令され食糧事情が緊迫する時代に、ジャズテイストでモダンな曲調からコーヒーの香りと豊潤な味わいの恋と夢とを歌っていた。21世紀のドイツ青年は、一杯のコーヒーを飲めないツキのなさから人生での別れや出会いのほろ苦さを味わう。思いのままにいかない一日の出来事を、人生になぞられていて良い後味の残る逸品。

ガールフレンド(カタリーナ・シュットラー)の部屋で目覚めたニコ(トム・シリング)。だが、そのガールフレンドとの’さよなら’からツイていない一日が始まる。コーヒーも飲めずに、運転免許の再交付のため面接に行くと神経質な係官に苛立ち’発効停止’。コーヒーショップに行けば法外な値段にうんざりし店を出る。気分直しにと自称俳優の友人マッシェ(マルク・ホーゼマン)とベルリンの町を歩けば、見違えるほどダイエットに成功した同級生ユリカ(フリデリーケ・ケンプター)が出演している前衛劇を見に行くことになり、そこで監督とマッツェとのいざこざやユリカの心の病に触れてしまう。

父親に呼び出されると、2年前に大学を辞めたことを告げずに学費をもらい続けていたのがバレて仕送り停止。夜になれば、ドラッグを売りさばくマルセル(テオ・トレプス)の家でおばあちゃんと不思議にほっとする会話ができたものの、不良青年に絡まれたり、バーではコーヒーマシンが洗い終わった後でやっぱりコーヒーは飲めず。カウンターにいたフリードリヒ老人(ミヒャエル・グヴィスデク)からナチス時代に経験した’水晶の夜’でのユダヤ人迫害の話を聞かされる。だが、老人との出会いは、すれ違いと出会いが続いた長い一日を味わいのある時間へと導いていく。

ニコはマッツェと立ち寄った店でダイエットして前衛演劇に出演しているユリカと再会したものの。 © 2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved
ニコはマッツェと立ち寄った店でダイエットして前衛演劇に出演しているユリカと再会したものの。 © 2012 Schiwago Film GmbH, Chromosom Filmproduktion, HR, arte All rights reserved

ゲルスター監督は、このデビュー作にトリフォー監督作品などヌーベルヴァーグへのオマージュを味付けしているという。自分が何をしたいのか見いだせないでいるニコ。その寂寥感は、モノクロームで映し出されていくベルリンの街の風情とサウンドトラックの調べと響きのなかに醸し出されている。

それでも暗い夜のままで終わる日はない。夜明けの静けさが、人生を味わえる何かを発見したくなるように。また朝のコーヒーを求めさせてくれる。 【遠山清一】

監督:ヤン・オーレ・ゲルスター 2012年/ドイツ/85分/原題:Oh Boy 配給:セテラ・インターナショナル 2014年3月1日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/coffee/
Facebook:https://www.facebook.com/coffee.cetera?fref=ts

2013年ドイツ・アカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞(トム・シリング)・助演男優賞・音楽賞6部門受賞、バイエルン映画賞男優賞・脚本賞受賞、ドイツ映画批評家賞新人監督賞・音楽賞受賞、ドイツ新人賞新人監督賞受賞作品。2012年ミュンヘン映画祭「新しいドイツ映画奨励賞」最優秀脚本賞受賞、ブラティスラヴァ国際映画祭監督賞受賞、オルデンブルク国際映画祭作品賞・シーモアカッセル賞(トム・シリング)・観客賞受賞、タリンブラックナイト映画祭レッドへリング賞・観客賞受賞作品。