愛娘が誘拐された怒りと容疑者への過剰な行為に苦悩するケラー ©2014 Alcon Entertainment, LLC. All rights reserved.

本作のオフィシャル・ホームページの、アメリカで1年間に行方不明になる児童が80万人、1分間におよそ1.5人の発生率というリードコピーに目を引かれる。まさに「この映画、ひと事じゃない」のキャッチコピーそのもの。信仰心篤い父親が、友人の娘とともに幼い愛娘を誘拐される。自分の生命財産そして権利は、自分で守るという前提で銃社会が容認されているアメリカ。娘を救出するため容疑者を過剰なまでに追いつめていく父親。暴走する父親とは正反対に、冷静な分析力と地道な捜査で見えない犯人を追う刑事。父親の暴挙に加担していく友人夫妻や捜査から浮かび上がってくる容疑者たち。緊迫したち密なストーリー展開だけでなく、人物たちのキャラクターや心理状態をも丁寧に描いていく演出、音楽と情景映像のいずれもが観るものの心情を捕えていく作品。

ペンシルヴェニア州の小さな田舎町で家屋補修の工務店を経営しているケラー・ドーヴァー(ヒュー・ジャックマン)は、妻グレイス(マリア・ベロ)と息子ラルク、6歳の娘アンの4人暮らし。友人宅での感謝祭(11月第4木曜)の夕食会に訪問した。友人のフランクリン(テレンス・ハワード)と妻ナンシー(ビオラ・デイビス)には、自分の子どもたちと同じ年頃の娘2人がいる。しかし、末娘たち2人が、夕食づくりの間にいなくなった。ラルクは、近くに止まっていたRV車がいなくなっているのに気が付く。

ラルクが見たRV車が見つかった。車中にいたのはアレックス・ジョーンズ(ポール・ダノ)。伯母のホリー・ジョーンズ(メリッサ・レオ)と2人暮らしだが、10歳児程度の知能しかない30代の男。捜査担当のロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)は、車の中には、2人の女児がいたような証拠は何もなく、アレックスには証拠隠滅できる知能もないことを父親のケラーたちに伝える。警察も嫌疑不十分なため48時間の拘留期限で釈放した。この処置に憤慨したケラーが、警察署の前でアレックスを抑え込んで詰問した。この時ケラーは、アレックスの一言を聞いて、彼が事件に関与してると確信する。そして、警察の監視の隙を突き、アレックスを父親が住んでいた古家に拉致してしまう。

16キロ圏内にいる9人の幼児性愛前科者の取り調べや、わが子を誘拐された親に事情聴取し地道に捜査していたロキ刑事のところに、幼児服を買いに来る男の情報が寄せられた。家の中には、壁に書かれた迷路図や血痕の付いた幼児服とヘビが入っているいくつもの箱があった。ロキ刑事は、男を緊急逮捕するのだが…。

ロキ刑事はケラーの過激な行動もに振り回される ©2014 Alcon Entertainment, LLC. All rights reserved.

ドゥニ・ビルヌーブ監督は、2010年に「灼熱の魂」でアカデミー賞にノミネートされいるが、本作でも人間性の深い洞察力と複雑な心理描写をサスペンスフルに描いていき2時間半の長さを感じさせない緊張感をもって展開していく。ロジャー・A・ディーキンスの撮影は、田舎町の静けさと雨から雪に変わっていく天候の変化によってケラーとロキの激しい葛藤と心寂しさが伝わってくるよう繊細で美しい。

被害者と思っていた者が、加害者の立場に入れ替わっていたり、その逆の情況が浮かび上がってくる複雑な進展。だが、信仰心篤いケラーが拉致したアレックスを鬼気迫る形相で問い詰めていく過激な行動は、救出への焦りと正義への妄信的な執着なのか。一方、身体にタトゥを彫り、指にフリーメーソンの指輪をはめているロキ刑事の理知的な捜査と行動。宗教的な象徴が随所に描かれているのは、囚われている心の情況をも描こうとしているのだろうか。 【遠山清一】

監督:ドゥニ・ビルヌーブ 2013年/アメリカ/153分/映倫:PG12/原題:Prisoners 配給:ポニーキャニオン、松竹 2014年5月3日(土)より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー。
公式サイト:http://prisoners.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/prisoners.jp

2013年アメリカメイキャップアーティスト/ヘアスタイリスト組合賞BEST CONTEMPORARY MAKE-UP受賞、第17回ハリウッド映画祭 助演男優賞(ジェイク・ギレンホール) 受賞、第86回アカデミー賞撮影賞ノミネート作品。