映画「ノア 約束の舟」――神の裁きへの恭順に葛藤するノアの生き様

アダムとエバから誕生した人類は、一度、ノアと3人の息子夫婦のほか全地を覆う大洪水によって滅びている。現在の人類は、3人の息子たちセム（ユダヤ、アッシリア、アラム語族の祖）、ハム（インド・ヨーロッパ語族の祖）、ヤペテ（エジプト、アフリカ語族の祖）の末裔ともいわれる。その神の裁きと人類再生への転換となったノアの箱舟と大洪水は、世界中に広く知られている聖書の物語。

神のことばを直接聞くことのできた神話の時代、激しい大雨と大地が張り裂ける大洪水の危機を察知して箱舟に逃げ込んでくる動物たち。イメージが広がる物語の世界を、アロノフスキー監督は聖書に記述されている原寸大の箱舟を建造し、神の裁きの命令を受けた苦悩と、残された家族との未来を築くことができるのかというノアの葛藤を壮大なスケールでスペクタクルに描いている。

父レメク（マートン・チョーカシュ）の教えを守り創造主を信じる信仰に生きるノア（ラッセル・クロウ）は、ある夜、荒廃した大地に一輪の花が咲き、やがて大洪水に人々が呑みこまれていく夢にうなされて目覚める。人類が、罪と悪に満ちているために滅ばされることと、動物と植物を守り神の園を再生する使命を託宣されたノアは、この神託を確かめるため妻ナーム（ジェニファー・コネリー）と3人の息子たちを連れて祖父メトシェラ（アンソニー・ホプキンス）を訪ねる。その途中、父レメクを殺したトバルカイン（レイ・ウィンストン）の一族に襲われた家族を発見し、一人生き残った幼子イラ（エマ・ワトソン）を養女として育てる。

ノアと息子たちは、森を伐採し神から告げられた寸法で箱舟を建造する。そこではメトシェラのところからノアに従っている岩石巨人化した堕天使らも箱舟造りを手伝っている。息子たちは成長し、イラも年頃の娘に育っていく。
やがて長男のセム（ダグラス・ブース）とイラは恋仲になっていく。それを見せつけられるハム（ローガン・ラーマン）は、自分にも妻となる女を与えてほしいと願う。だが、ノアは息子たちが望む結婚を喜ばず、むしろ反対する。神は人類を裁きいたのであり、人類は自分たちの代で滅びるのが神の意志だと家族に教える。だが、妻ナームはノアの理解に対して疑念を抱く。

そして、箱舟が完成する頃、トバルカインが群衆を率いて押し寄せ「箱舟を渡せ」とノアに詰め寄る…。

ノアたちが箱舟で漂流するのは1年に及ぶ。その間、真っ暗な船内はどのように灯りを取り、暖房や料理をしたのだろうか。そうした疑問と想像の種は、原寸大の箱舟の中でスケールの大きなリアリティを俳優たちに湧き起こさせている。公式サイトでの箱舟内の案内動画は、一層の関心を誘う。

聖書のノア物語の重要なエピソードはほとんど盛り込まれているが、箱舟の建造に堕天使が手伝ったり、次男のハムが父ノアとの確執を深めていくストーリー展開は聖書に記されていない創作。その他、聖書を信じる人たちには、アロノフスキー監督のユニークな解釈と脚色のきにかかる物語がいくつも挿入されている。だが、この’娯楽大作’は、神が天地万物の創造者であり、人間は神に対して罪をもっており神の裁きと神の愛への招きを受けている存在であるという、聖書の中心的なメッセージは終始ぶれることなく貫かれている。　【遠山清一】

監督：ダーレン・アロノフスキー　2014年/アメリカ/132分/英語/原題：Noah　配給：パラマウント・ピクチャーズ・ジャパン　2014年6月13日（金）より全国公開。
公式サイト：http://www.noah-movie.jp
Facebook：https://www.facebook.com/movieNOAHjp