映画「記憶探偵と鍵のかかった少女」――意識の深層にある自分の過去の記憶の確実性とは?
偽証は、自分を守るため虚偽を述べること。嘘であっても、何十回と真剣に述べ続ければ、いつの間にか自分の嘘が真実に思えてくる。そんな記憶の危うさを、ハイセンスな脚色で知的な迷いの森へ引き込んいく上質なサイコミステリー。
ジョン・ワシントン(マーク・ストロング)は、妻が謎の自殺を遂げたトラウマをもつ記憶探偵。記憶探偵とは、他人の意識や記憶に入り込み客観的に観察する特殊能力を駆使して、その当事者とともに出来事を追体験する人を指してる。
ある日、上司のセバスチャン(ブライアン・コックス)から16歳の女高校生アナ・グリーン(タイッサ・ファーミガ)が自室に閉じこもり、絶食している。彼女の記憶からその原因を探り、問題を解消してほしいとの仕事を託された。
ジョンは、アナの母親ミシェル(サスキア・リーブス)と継父ロバート(リチャード・ディレイン)と面談する。アナは抜群にIQが高く、幼少の時から変わった子だったが、寄宿舎で何度も問題を起したため自宅に戻って来ていた。ミシェルは心労に悩み、ロバートは屋敷に監視カメラを設置し、専門看護師を置き24時間体制でアナを見張っている。アナを施設に入れてしまいたいのが、ロバートの本音だ。
ジョンは、アナの部屋で彼女の記憶に入り込み、幼少のころの記憶から高校までさまざまな事件の現場を追体験する。ロバートから受けた虐待、学校で美術教師による性的虐待、クラスメイトのいじめや殺人未遂事件…。アナは、自分はやっていないと傷ついた心の叫びと記憶をジョンに見せて訴える。
やがて、グリーン家でも事件が起こる。アナの専門看護師が階段から転落して大けがをする。そして、アナの記憶に潜入して追体験した数々の事件の関係者たちと面談し裏付け調査を進めると、関係者たちの証言はアナと追体験した記憶の内容とは食い違っていた。そして、ジョンにも事件が起こる。
邦題は、ジョンとアナの関係性と’鍵’という重要なアイテムが、時間を超越して人間の存在と思考の物語を想起させてくれる。はたして、人間は自分の過去の記憶を操作できるのだろうか。そうした物語の秀逸さとともに、ジョンが初めてアナの部屋に入るシーンで、壁一面にアナが描いた螺旋やバラの絵そして妖艶ささえ漂うアナの仕草など原題のMindscapeそのままに小道具や構図が様々な連想を生みミステリアスな世界へ導いていく。テーマもシーンもこれまでと一味違う趣きを提示しているミステリー映画だ。 【遠山清一】
監督:ホルヘ・ドラド 2013年/アメリカ/99分/映倫:PG12/原題:Mindscape 配給:アスミック・エース 2014年9月27日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー。
公式サイト:http://kiokutantei.asmik-ace.co.jp
2014年第28回ゴヤ賞(スペイン・アカデミー賞)新人監督賞ノミネート、第6回ガウディ賞美術賞ニミネート、第46回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭ファンタスティック・コンペティション正式出品、第32回ブリュッセル国際映画祭ファンタスティック・コンペティション部門正式出品作品。