映画:「うまれる ずっと、いっしょ。」――いっしょに生きていく・生かされていく’家族’という絆

今さん一家は、妻であり母である順子さんの末期がんを娘たち家族がしばらく同居して支えた。他界した後の夫・賢蔵さんの大きな喪失感にも近づきすぎず、離れすぎずに見守っている。 © 2014 Indigo Films

2歳の男の子をもつ女性と結婚しステップファミリーを築いているが自分は実父でないことをどのように教えるかを思案する夫、末期がんで最愛の妻に先立たれた夫、1歳まで生きられる確率が10%といわれる障がいを持って生まれた男の子を育てる夫婦。3つの家族の生き様をとおして、いっしょに生きてきた証しと生きている現実、そして生かされている未来への結び目を繋いでいく’家族’という絆がみえてくるドキュメンタリー。

夫婦仲の良い安田さん夫妻は、妻の千尋さんの息子・昊矢(そうや)くんが2歳のときに結婚した。夫・慶祐さんは、自分を父親と信じて「大好き」と言って甘えてくる5歳になる昊矢くんに、いつ、どのように血の繋がりがないことを教えようかと悩んでいる。それは、自分の生い立ちともかかわりがあり、簡単には割り切れない。そんなとき、千尋さんが妊娠した。新しいいのちが誕生することは、家族3人それぞれに喜びと不安をもたらす。ついに慶祐さんは、昊矢くんに伝えることを決心するが…。
今(こん)賢蔵さんは、42年間連れ添った妻・順子(65歳)さんを末期がんで在宅ケアをしながら見送った。2人の娘たちも、それぞれ夫と子どもたちが協力し実家でいっしょに暮らした。順子さんにとっては、長女・真由美さんが4人目の孫を妊娠していたのでその誕生を楽しみにしていた。だが、その誕生を見ることなく亡くなり、賢蔵さんも大きな喪失感を抱いていた。豪田監督と牛山朋子プロデューサーが訪ねていくたびに、賢蔵さんはその耐えられない思いや苦しみを隠すことなく語り始める。やがて賢蔵さんは、このままではいけないとかつて順子さんといっしょに楽しんでいたことをもう一度やろうとチャレンジする。
松本哲さんと直子さん夫妻の一人息子・虎大(愛称は虎ちゃん)は、18トリソミーという染色体の障がいを持って誕生した。1歳まで生きられる確率は、10%といわれる不治の病。2歳の誕生日を迎えた虎ちゃんは、自分の口でミルクも飲めるようになり、表情も豊かになった。だが、虎ちゃんが突然、危篤状態に陥る。いつ命が果てるか分からないことは分かっていても、その現実にあ然とし、虎ちゃんの死を覚悟する松本さん夫妻。その後、虎ちゃんは奇跡的に回復し、誕生から3回目の桜を見上げることができた。松本さん夫妻は、元気が回復してくる虎ちゃんと、飛行機で沖縄旅行に行くことを次の目標にしてチャレンジする。

ステップアップファミリーの安田さん夫妻。夫・慶祐さんは、自分を父親と信じてなついてくる昊矢くんに、いつ、どのように実父でないことを教えるか思案する。 © 2014 Indigo Films

血の繋がりはなくとも’家族’をどのように築いていくかを想う父親。遺された者として、生かされている者として亡妻とともに生きる在り方を思う夫。不治の病のわが子との一瞬一日を完全燃焼させたいと願う父母。
4年前に公開された前作「うまれる」に登場した松本夫妻と虎ちゃんの’いま’が描かれてはいるが、続編というよりはテーマと趣きに変化を持たせた’シリーズ’第2弾として位置づけられている。本作を最初に見ても、’家族とは何か”いのちとは何か”家族の絆とは’について思う一つひとつが心にしみてくる。 【遠山清一】

監督:豪田トモ 2014年/日本/119分/映倫:G/デジタル/カラー 配給:ミモザフィルムズ 2014年11月22日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://www.umareru.jp
Facebook:https://www.facebook.com/umareruthemovie