映画「ジミー、野を駆ける伝説」――アイルランド独立と自由を追い求めた’名もなき英雄’の物語

© Sixteen Jimmy Limited, Why Not Productions,Wild Bunch, Element Pictures,France 2 Cinema,Channel Four Television Corporation,the British Film Institute and Bord Scannan na heireann/the Irish Film Board 2014

アイルランドが対英国との独立戦争を休戦(英愛条約;1921年)し、北アイルランドの6州を除いて自由独立国になって10年後を時代設定にした物語。英愛条約が締結された年に、かつてアイルランド独立をめざして武装蜂起したパトリック・ピアーズとジェイムズ・コノリーの記念ホール(ピアーズ=コノリー・ホール)を建設し、村人たちの憩いのホールにした実在の活動家ジミー・グラルトンの伝記。独立運動の表舞台に記録される人物ではないが、今日まで語り継がれている’名もなき英雄’が求めて闘い続けた心の自由。ケン・ローチ監督は、重苦しい圧迫感の中で体制下されつつあるような今日の日本にも伝わるメッセージ性をもった作品に仕上げられている。

青年時代に渡米し、ニューヨークからアイルランドの独立を支援し、活動していたジミー・グラルトン(バリー・ウォード)が、内戦が終わって10年ぶりに北アイルランドに接するリートリム州の故郷に帰ってきた。兄が亡くなり、母親の面倒を見ながら暮らすためだった。
だが、ジミーが戻ってきたことを知った村人たちは、ジミーたちが10年前に建てたピアーズ=コノリー・ホールを再建してほしいと懇願する。自由独立国にはなったが、英国の国王をもちローマ・カトリックの影響が残るなかで、住民のためのピアーズ=コノリー・ホールは閉鎖され、老朽化していた。
10年前、ピアーズ=コノリー・ホールは、老いも若きも集まって手芸やコーラスに興じ、独立と政治などについて自由に論議できる交流の場だった。だが、教会は風紀の乱れを懸念し、政府は過激な思想への温床にならないかと危惧する。折しも、ジミーは土地の使用権を巡る係争にかかわったことで当局からにらまれた。アメリカの市民権を持っていたことで強制退去の処分を受けたのだった。
閉鎖されていたホールを見回しながら抑圧されたている住民の心の渇きを感じ取ったジミーは、内に燃えるものを抑えられなくなりホールの再開を決意し行動する。アメリカから持ち帰った蓄音機は、住民にダンス教室を開かせる。10年前には恋人だったウーナ(シモーヌ・カービー)は、結婚して子どももいるが、コーラス教室を指導する。
住民の活気がよみがえってきたが。だが、教会のシェリダン神父(ジム・ノートン)は、そんなジミーの影響力を最も警戒する。ダンス・パーティーに集まる人たちをチェックし、礼拝で厳しく糾弾するなど、その警戒心と反対の姿勢を明確に示す。ジミーは、シェルダン神父にホールの運営委員に加わってほしいと和解案を提示するのだが、神父は学歴をもたないジミーを相手にせず、むしろホールの運営を教会の管理下に置くようにと主張して耳を傾けない。
ある日、IRAが地主から不当に追い出された労働者家族のために助力してほしいと持ちかけてきた相談事は、ジミーの立場をさらに悪くする。だが、ジミーはホールで仲間たちの賛否両論の意見を聞いたうえで、労働者たちのサポートに乗り出すことを決意し、行動した。当局の意図をくんだものたちが、ホールを焼き討ちし、ジミーにも危害が及びつつあった。

© Sixteen Jimmy Limited, Why Not Productions,Wild Bunch, Element Pictures,France 2 Cinema,Channel Four Television Corporation,the British Film Institute and Bord Scannan na heireann/the Irish Film Board 2014

「我々は人生を見つめ直す必要がある。欲を捨て、誠実に働こう。ただ生存するためではなく、喜びのために生きよう…、自由な人間として」と住民に演説するワンシーンが予告編にも紹介されている。1933年の出来事にスポットを当てながら、政治と宗教の問題や道徳と自由の問題など多様なテーマを提示している作品だ。ともすると対立関係が図式化され平面的な描き方に陥りやすい物語を、ローチ監督は、反目し合いながらも互いの主張と生き方を、敬意をもって闘うジミーとシェルダン神父の人間味を描いている。権力を持たない市井の人であればこそ、自由を求め、自由を得るためのくじけない努力が大切であることを爽やかに教えてくれる。 【遠山清一】

監督:ケン・ローチ 2014年/イギリス=アイルランド=フランス/109分/原題:Jimmy’s Hall 配給:ロングライド 2015年1月17日(土)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.jimmy-densetsu.jp
Facebook www.facebook.com/JimmyDensetsu

2014年第67回カンヌ国際映画祭コンペティッション部門出品作品。。