映画「カフェ・ド・フロール」――運命的出会いをスピリチュアルな感性で描く
‘見えない紅い糸’、’前世からの因縁’など運命の人との出会いがなぜお起こるのか。人生のパートナーが’ソウルメイト’(前世からの運命で結ばれた恋人、仲間)と思っていたが揺らぎ始めた心。1969年代のパリに住む母子と現代のモントリオールに暮らす男女のしがらみ。時空を超えた二つの家族に絡まるマシュー・ハーバートの曲「Cafe de Flore」。ジャン=マルク・バレ監督は、運命的な出会いと人間の心を、複雑な脚本展開とマシュー・ハーバートの’Cafe de Flore’、ピンク・フロイド’Breathe ‘シガー・ロス’Svefn-g-englar’などの楽曲によってスピリチュアリズムな感性で描いている。
1969年、パリ。美容師のジャクリーヌ(バネッサ・パラディ)は、小学生でダウン症の息子ローラン(マラン・ゲリエ)を育てるシングルマザー。ダウン症児の平均寿命が短いことを知り、ローランを少しでも長生き出来るようにと心を配り、施設の学校ではなく普通学校で教育させ健常の子どもたちといっしょに育てることに懸命だ。
ある日、ローランのクラスにダウン症の少女ヴェラが転入してきた。出会った瞬間からローランとヴェラは親密になり、やがて片時も離れたがらなくなる。二人の行動は、学校でも問題視し、ローランを専用の施設へ移すよう提案するがジャクリーヌは受け付けない。そんなジャクリーヌに、ローランは「ヴェラを愛している」と告げる…。
2011年、モントリオール。40代のアントワーヌ(ケビン・パラン)は、DJとして成功し、恋人ローズ(エブリーヌ・ブロシュ)との暮らしにも満足している。マシュー・ハーバートの’カフェ・ド・フロール’が好きな曲だというアントワーヌは、音楽には人生を変える力があると信じている。
アントワーヌは、若い時に互いに惹かれ’ソウルメイト’と信じ合って結婚したキャロル(エレーヌ・フロラン)との間に娘二人を授かっていた。だが、仕事に行き詰った時に禁酒会のミーティングでローズと出会いキャロルはソウルメイトではないかもしれないという思いに揺らいでいく。二年前にアントワーヌはキャロルと離婚した。
アントワーヌしか愛したことがなかったキャロルは、別離の傷心からいやされないまま、薬で精神的な安定をどうにか保っていた。キャロルは、いつも夢に見る小さな男の子のことが気になっていた。その子を’小さなモンスター’と呼んでいたが、やがて幻覚にも現れるようになり、その意味を知ろうと霊能者のところへ行くキャロル…。
時代を超えた運命的な出会い、ソウルメイトの存在を信じるかという輪廻的なテーマを、年代も場所も異なる二つの物語が複雑に重ね合わせて描かれる展開は少し難解か。それでも、見えない不可思議な絆の絡みへ引き込まれてしまうのは、ジャクリーヌとローラン、アントワーヌとキャロルのうごめく心の渦の強さゆえか。
本作のタイトルにもなった曲’Cafe de Flore’やシガー・ロス’Svefn-g-englar”Andvari’、ソフィー・ハンガーの’Le Vent nous portera’などふんだんに使われる楽曲が二つの物語の世界をつないでいる。キャストらが演じる感性と音楽的感性のクロスオーバーがなんとも味わい深く、印象的な作品だ。 【遠山清一】
監督・脚本:ジャン=マルク・バレ 2011年/カナダ=フランス/英語、フランス語/120分/映倫:R15/原題:Cafe de Flore 配給:ファインフィルムズ 2015年3月28日(土)よりYAESU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://www.finefilms.co.jp/cafe/
Facebook https://www.facebook.com/pages/映画カフェドフロール/904528542912601
2012年第32回ジニー・アワード主演女優賞(バネッサ・パラディ)・視覚効果賞・メイキャップ賞受賞、第14回ジュトラ・アワード主演女優賞・撮影賞・美術賞受賞、第31回アトランティック映画祭カナダ映画賞受賞、第12回バンクーバー映画批評家協会賞カナダ映画賞・助演女優賞(エレーヌ・フローラン)受賞。