ある日突然、精神異常者として強制入院されたスア (C)2016 OAL, ALL RIGHTS RESERVED

保護者2人と精神科専門医師1人の診断があれば対象者本人の同意なしで「保護入院」を理由に強制入院を実行できる韓国の法律“精神保護法 第24条”を悪用した実在の拉致監禁事件をモチーフにした社会派サスペンスドラマ。ある日突然、精神異常者(Insane)にされてしまう恐怖感。権力と財力を貪り盗ろうとする欲望と心の闇の仕業をあばくサスペンス・スリラーは、現代韓国社会の盲点をリアルに描き警鐘を響かせている。

【あらすじ】
2015年6月の午後、大都会の大通りを1人で歩いていたカン・スア(カン・イェウォン)は、
突然、警察関係の車に押し込められ拉致された。連れ去れた先はジャン医院長(チェ・ジノ)が経営する私設精神病院。そこでスアは強制的に薬物投与され理不尽な暴力を受け続ける。病院のスタッフたちに助けを求めても、誰も耳を傾けてはくれない…。

それから1年後。社会問題や事件の真相を衝く人気テレビ番組「追跡24時」の有名プロデューサー、ナ・ナムス(イ・サンユン)は、ヤラセ問題を告発されて仕事を干されかけていた。再起を図るナムス宛に、カン・スアから1冊の手帳が届いた。手帳には、スアが私設病院で受けた信じがたい出来事が、追い込まれる精神的な苦痛に耐えながら克明に記録されていた。

手帳に興味を持ったナムスは、手帳に書かれている出来事の裏を取り始める。すると、手帳の送り主スアは、私設病院が火事で消失した後、義理の父親に当たる警察署長を射殺した容疑者として収監されていた。ナムスが独自に取材を進めていくにつれ、精神病院の非道な行為やスアを精神異常者としてジャン医院長に申告し診断を依頼した人間の実像が浮かび上がってくる…。

ナ・ナムスはプロデューサーに復帰しようとスアの手帳の内容を調べ始める (C)2016 OAL, ALL RIGHTS RESERVED

【見どころ・エピソード】
実在の事件をなぞっているだけに、合法的に精神異常者に貶められていくフィクションを超えるような恐怖感がリアルに迫ってくる。精神的に追い込まれていくなかで必死に理性を保とうと闘うソア役カン・イェウォンの鬼気迫る演技、そしてラストシークエンスでのどんでん返しはサスペンスの複雑な展開を存分に愉しませている。

“精神保護法 第24条”の悪用が、保護者と精神専門医師、移送業者らによる強制的な長期入院とともに人権侵害を社会的にも問題の指摘が高まっている。本作の公開後、韓国の憲法裁判所では、精神疾患患者の強制入院について“本人の同意がなければ憲法違反”との判決が下された。聴覚障害者の学校で責任者による生徒への虐待を問題提起した「トガニ 幼き瞳の告発」(2011年公開)は、障害者の女性への虐待の厳罰・厳正化と障害者や13歳未満への虐待に対する公訴時効の撤廃などの法制化をもたらした。本作も映画がジャーナリズムの姿勢をみせている作品として存在感のある佳作。

監督:イ・チョルハ 2016年/韓国/91分/英題:Insane 配給:太秦 2018年1月20日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国ロードショー。
公式サイト http://www.insane-movie.com
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