(C)2017 WHILE YOU WERE COMATOSE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

大学を出てコメディアンを目指すアジア系アメリカ人青年が、白人女性と恋に陥り家族観・宗教観など二人を取り巻く異文化ゆえの摩擦から起こる様々な障害に遭いながら人間成長していくラブコメディ。
人種の違い、異文化を超えての結婚をテーマにした映画は、笑いあり涙ありのストーリー展開に惹きつけられる。ある程度、顛末が予想できても、やはり誤解と思い違いのこじれた紐がほぐされていき、人間同士の心の触れ合いが伝わってくる。

【あらすじ】
パキスタン移民を両親に持つクメイル(クメイル・ナンジアニ)は、シカゴで医者としてに成功した父アズマ(アヌパム・カー)と母のべス(ホリー・ハンター)から「弁護士になるように」迫られている。だがコメディアンになることを夢見ているクメイルは、両親の反対を押し切り、ウーバー(UBER:自分の空き時間と自家用車を使って顧客を目的地まで運ぶシステム)の運転手をしながらコメディクラブのステージに立ってチャレンジを続けながらなんとか暮らしている。

厳格なイスラム教徒の両親は、話しているネタを絵に描いたような生活文化を守っている。とりわけ結婚は“お見合い結婚”しか認めない。兄のナヴィ―ド(アディーリ・アクタル)は、両親の勧めを受け入れ母親べスと同郷の娘と見合い結婚した。べスは、クッキーの空箱がいっぱいになるほど見合い写真をクメイルに手渡し、ひっきりなしにお相手の娘を家に呼び寄せてはクメイルに引き合わせる。しかし、アメリカ育ちのクメイルは、親によって決められる結婚には疑問をもちながらも、白人女性と自由な恋愛結婚をして親戚中からに縁を切られることにはなりたくないと悩んでいて煮え切らない。

クメイルのコメディは「1日5回だけ祈りを捧げる。そして親が見つけた相手と見合い結婚を…」などと、パキスタンの異文化ネタを十八番にしているがイマイチ客受けはよくない。ある夜のステージで、大学院で心理学を学んでいるエミール(ゾーイ・カザン)がクメイルのコメディトークを野次ったことがきっかけで、二人は急速に親しくなった。エミリーと付き合っていることを両親に話せないクメイル。一方のエミリーは、クメイルとのことを真剣に考えるようになっていく。自分の両親にクメイルを引き合わせようとランチに誘うが、クメイルは“連読2日以上女性とは合わない”という自分の“2日ルール”を持ち出して断ってしまう。

そんなやり取りの後、二人の別れは突然やってくる。クメイルのアパートの部屋に遊びに行ったエミールは、クッキーの空箱に入っているたくさんのお見合い相手の写真を見てしまう。エミールの真剣な問いかけに窮して、誠実に答えているようには見えないクメイルの対応に傷つくエミール。数日後、エミールが突然、原因不明の重体に陥り病院に搬送されたと、エミールのクラスメイトからクメイルに知らせが入った。病院に駆けつけると、治療のため薬で昏睡状態にして緊急処置する必要があるとの医師の説明を受け、家族に代わって承諾のサインをするクメイル。一晩、病床のエミールの傍に付き添いながら、付き合ってきた日々を想うクメイル。翌朝、エミールの両親が駆けつけてきた。エミールから二人が分かれるまでのいきさつを聴いていた両親は、冷たい態度でクメイルにあたる…。

エミリー(中央)は両親にクメイルのことを話し引き合わせようと努めるが… (C)2017 WHILE YOU WERE COMATOSE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

【見どころ・エピソード】
本作は、主演しているクメイル・ナンジアニ自身の経験がもとになっており、脚本もクメイルが書いている。パキスタン移民の成功者が多いことは事実で、設定やストーリー展開にもリアリティがある。

エミリーが緊急入院して重篤な状態に陥り、クメイルが昏睡状態の彼女の傍に付き添い続けるところがストーリー展開の大きなポイント。また、ラブコメを物語の核としながら、2011年の9・11テロ以降のムスリムに対する偏見や有色人種への差別的な市民感情などもさりげなく描かれている。コメディライブの客がムスリムのクメイルに「ISISへ帰れ」と野次ったことが大きな展開につながるのも見どころの一つ。

オバマ大統領は、大統領選挙に勝利したとき、もう政党や人種の隔てではなく「われわれはユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカだ」と“統合”への理念を宣言し、“和解と赦し”を折あるごとに説いていた。だが、トランプ政権のいまはアメリカ第一主義が宣言され、白人至上主義と人種間の分断の種が撒かれている。そのような政治状況のなかで、わずか5館での上映から広がり、いまやアカデミー賞脚本賞ノミネートに挙がる大ヒット作品になっている。それは、たんにラブコメでは終わらない“いま”のアメリカを垣間見せていることに多くの観客が反応してのことだろう。 【遠山清一】

監督:マイケル・ショウォルター 2017年/アメリカ/120分/原題:The Big Sick 配給:ギャガ 2018年2月23日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://gaga.ne.jp/bigsick
Facebook https://www.facebook.com/gagajapan/

*AWARD*
2018年:第90回アカデミー賞脚本賞ノミネート作品。 2017年:サウス・バイ・サウスウエスト映画祭2017観客賞受賞。ロカルノ映画祭観客賞受賞。ナンタケット映画祭観客賞受賞ほか多数。