映画「ナチュラルウーマン」――トランスジェンダーを超えて“人間”として自分らしく生きたい
若いトタンスジェンダー女性は、互いに愛し合い“大人の関係”を育んでいた初老の男性を突然死で亡くす。二人の関係を認めない家族らから侮蔑される彼女は、一人の“人間”として愛した人の死を悼み、二人で愛した飼い犬を取り戻し、自分らしく生きることを護ろうとする人間ドラマ。出生したときの性別とは性同一性が対応しない状態のトタンスジェンダーの特徴をテーマにした内容というよりも、一人の人間の在り方をどのように捉え、どのように尊厳を認め合うかを問いかけるストーリー展開と演出が際立っている。
【あらすじ】
チリの首都サンティアゴ。トランスジェンダーのマリーナ(ダニエラ・ベガ)はレストランのウェイトレスをしながら夜はナイトクラブで歌っている。いっしょに暮らしているのは、テキスタイルの会社を経営している歳の離れた恋人オルランド(フランシス・レジェス)と二人の愛犬ディアブラ。オルランドが、ステージを終えたマリーナに誕生日プレゼントだと言って封筒を手渡す。中身は「イグアスの滝へ行ける券」と書いた紙。オルランドは、購入した2人分のチケットの置き場所が思い出せないと少し落ち込む。帰宅したその夜中、オルランドの具合が悪くなり、病院へ行こうとして玄関を出て、階段から転げ落ち頭部を怪我したが、どうにか車に乗せて病院へ連れて行ったマリーナ。
だが、オルランドは動脈瘤が原因で急死する。動揺していっとき病院を離れたマリーナ。オルランドの弟ガボに理解に急死したことを電話で伝え、病院に戻ると警官から身分証明書の提示を求められた。オルランドが頭部を怪我していたことで彼の死に関与しているのではないかと疑われたマリーナ。警官と問答していると、二人の関係に理解を持っているガボが病院に到着し適切に対処してくれた。
オルランドを亡くした悲しみに浸る間もなくマリーナはレストランに出勤すると、オルランドの妻ソニア(アンリ・クーペンへイム)から「彼の車が必要だからオフィスに届けてほしい」との電話を受ける。ほどなく性犯罪担当の女性刑事コルステが訪ねてきた。金銭関係や死因などに疑いがもたれているようだ。「健全な大人同士の関係だった」と答えるマリーナ。
車を運転している途中、オルランドの亡霊を目にしたマリーナは「181」の番号札を付けた見慣れないキーを見つける。翌朝、オルランドの息子ブルーノ(ニコラス・サヴェドラ)が部屋に尋ねてきた。「(オルランドのものを)取ったのか」と不躾な言葉を浴びせ、マリーナへの嫌悪感をあらわにする。オルランドの車をソニアのオフィスに届けるマリーナ。ソニアは、オルランドからマリーナとの関係を説明されたとき“変態だ”と思ったと率直に話す。そして「幼い娘のためにも葬式には来ないでほしい」と言われたとき、マリーナは「行く権利はある」とことばを返す。オルランドと暮らした部屋を追い出され、思い出の品々も奪われ二人の愛犬まで持ち去られたマリーナは、意を決して行動に出る…
【見どころ・エピソード】
オルランドの遺族から葬式への参列を拒まれ侮辱的な言葉と暴力を振るわれても、復讐しようともいないマリーナ。ただ一人の“人間”として亡くなったオルランドとの絆を象徴する愛犬を取り戻そうとするマリーナの心情と苦難がダニエラ・ヴェガの演技によって過度に辛苦を表わさず、むしろ自律への前向きさが強く伝わってくる。「181」の番号札の在り処を探すミステリアスなシークエンスも映画らしい愉しませ方です。
マリーナを演じたトランスジェンダー女優のダニエラ・ヴェガは、ソプラノ音域が出せる歌手で、劇中でもヘンデルの“Ombra mai fu”を歌っているのも見どころ。また、エンドロールの挿入歌アレサ・フランクリンの“(You Make Me Feel Like)A Natural Woman”は、本作でマリーナがオルランドをどのように慕っていたか、その情感が存分に伝わってくる聴きごたえのあるエンディングです。 【遠山清一】
監督:セバスティアン・レリオ 2017年/チリ=ドイツ=スペイン=アメリカ/スペイン語/104分/原題:Una Mujer Fantastica 英題:A Fantastic Woman 配給:アルバトロス・フィルム 2018年2月よりシネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。
公式サイト http://naturalwoman-movie.com/
Facebook https://www.facebook.com/映画ナチュラルウーマン2月公開-1984582505191465/
*AWARD*
2018年:第90回アカデミー賞外国映画賞受賞作品(チリ代表作品)。 2017年:ベルリン国際映画祭脚本賞・エキュメニカル審査員賞テディ―賞受賞。