鈴木は17年前の猟奇殺傷事件の犯人「少年A」なのか… (C)2017映画「友罪」製作委員会 (C)薬丸岳/集英社

原作は、2013年のベストセラー小説『友罪』(薬丸岳著、集英社刊)。発売当初、1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇事件)の「少年A」のその後を彷彿とさせる物語として話題になった。だが原作者は、酒鬼薔薇事件がモデルではないと否定。物語のフォーカスは、猟奇殺人を犯した少年が少年法の刑罰・更生指導を終え、それからの人生をどの様な思いをもって歩むのか。法的な刑罰では償えないほど重い犯罪を犯した人間と、変わらずに友人のままいることができるのかに絞られている。人間の心の奥底に潜む罪性と果てしのない罪責感を負っての前途(ゆくて)に望むものは何か。重いテーマだが、友無き者の友となることの温もりを感じさせられる。

【あらすじ】
元雑誌記者の益田純一(生田斗真)は、編集者といざこざを起こしてしまい、ジャーナリストとしての道をあきらめた。日雇い生活から抜け出すため、ようやく見つけた職は社員寮のある町工場の見習い工員。同じ日に入社した鈴木秀人(瑛太)は、溶接の技術は持っているが無口で寮の先輩・清水(奥野瑛太)と内海(飯田芳)らともそりが合わない。

ある夜、酩酊して帰ってきた清水が寮の玄関で寝入ってしまう。清水をいっしょに介抱したのをきっかけに話しを交わすようになった益田と鈴木。益田は、鈴木が自殺した中学時代の同級生・桜井学に似ていると話しかけると、鈴木は唐突に「俺が自殺したら悲しいと思える?」と尋ねてきた。戸惑いながらも益田は、「悲しいに決まってるだろ」と答えると鈴木は一瞬安どの笑みを浮かべる。

工場から寮に帰る途中、鈴木は男に追いかけられている女性をかばう。だが、男に殴られても蹴られても無抵抗の鈴木。人気がして男は去って行った。彼女の名前は、藤沢美代子(夏帆)。美代子は、自宅のアパートで鈴木を介抱しながら自分を追い回している男・達也(忍成修吾)はかつての恋人だったが無理やりアダルトビデオに出演させられたので逃げている。だが、執念深く追いかけられ、居場所が見つかると引き戻そうとし、断ると出演させられたアダルトビデオを勤め先や近所に配られて職場にも居られなくなることの繰り返しだという。

数日後、鈴木は慣れない仕事と疲れで指を切断する事故を起こしてしまう。鈴木は、素早く切断された指を冷却容器に入れてタクシー運転手の山内修司(佐藤浩市)に渡し病院へ送り出す。鈴木の機転と運転手・山内の応急処置が功を奏して鈴木の指は再接合でき神経も機能しそうだという。

鈴木と美代子は、益田の退院祝いを心底楽しみ解放感に浸るが… (C)2017映画「友罪」製作委員会 (C)薬丸岳/集英社

タクシー運転手の山内は、夜勤が明けて妻・智子(西田尚美)の実家へ向かう。10年前、息子の正人(石田法嗣)が交通事故を起こし二家族の子どもを死なせてしまった。山内は、人の命を奪った罪を償うため家族を“解散”し、命日には遺族の二家族の家に謝罪に赴いている。妻の親族は、そこまでして謝罪しようとする山内を理解できず苦しむ。そして、事故を起こした正人から結婚を考えていると聞き、怒りと当惑を隠せない。

入院中の益田を元恋人で雑誌記者をしている杉本清美(山本美月)が見舞いに訪れた。清美は、いま追っている児童殺人事件が17年前の連続児童殺傷事件の犯人・青柳健太郎の再犯ではないかという噂について益田に意見を求められるが拒絶される。益田の退院祝いを寮の先輩らと鈴木たちがカラオケパブでしてくれる。鈴木は、友達として美代子も呼ばれていていつになく楽しそうにアニメソングを歌う。益田はそんな鈴木をスマホのカメラで撮る。寮に戻ると清美が益田のスマホのラインに17年前の連続児童殺傷事件について尋ねてきた。仕方なくパソコンで事件について検索する益田は、17年前の事件の犯人「少年A」こと青柳健太郎の顔写真が、鈴木に似ていることに気づかされる。さらに医療少年院で青柳を担当した白石弥生(富田靖子)の顔写真が、鈴木のスケッチブックに描かれていた女性に似ていた…。

悲惨な事件を起こした鈴木が、物語の中心に在るのだが何故そのような犯罪に及んだのかの解明には触れられず、悔悟の重さを引き受けながらも生きていたいという自己矛盾のさいなまれる鈴木の姿。山内や白石らの心を閉ざさせている罪責感。自分には贖いきれない罪責の念は益田の心にも深く根を張っている。そのような贖われたい思いを抱く人々のつながりとおして描かれていく真の“友”の必要さ。増田が鈴木宛の独白として書き上げた心情に、「すべて重荷を負うて苦労している者は、わたしのもとにきなさい。あなたがたを休ませてあげよう。わたしは柔和で心のへりくだった者であるから、わたしのくびきを負うて、わたしに学びなさい。そうすれば、あなたがたの魂に休みが与えられるであろう。」(マタイ福音書11章28-29節)と新約聖書にあるキリストの言葉が想い浮かんできた。 【遠山清一】

監督:瀬々敬久 2018年/日本/129分/映倫:G/ 配給:ギャガ 2018年5月25日(土)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開。
公式サイト http://gaga.ne.jp/yuzai/
Twitter https://twitter.com/yuzai_movie/