思い出の場所モント―ク岬の浜辺を歩くマックスとレベッカ (C)Ziegler Film/Franziska Strauss

ドイツの映画運動ニュー・ジャーマン・シネマの代表的監督の一人フォルカー・シュレンドルフ。2000年以降は「9日目 〜ヒトラーに捧げる祈り〜」(2004年)、「シャトーブリアンからの手紙」(2011年)、「パリよ、永遠に」(2014年)など第二次世界大戦下をテーマにした作品を制作していたが、どうしても描きたかったとして撮り挙げた“大人のラブストーリー”。シュレンドルフ監督が1980年代に撮っていた文芸作品の香り立つ瑞々しい演出と映像美で、17年ぶりに再開した男女の愛することへの男の未練と女の覚悟の感性の差異を見つめていく。

17年前の別離を惜しむ男と
再会を躊躇する女の生き方

アメリカ人の作家マックス・ゾーン(ステラン・スカルスガルド)は、いまがベルリンを拠点に創作活動をしている。久しぶりに一週間の予定でニューヨークに帰ってきた。目的は新作のプロモーション。ニューヨークの出版社に勤めている妻のクララ(スザンネ・ウォルフ)が、朗読会やインタヴュー出演などのイベントをマネージメントしている。

学生時代に支援してくれていたウォルター(ニエル・アレストリュプ)が朗読会に訪れた。妻のクララをウォルターに紹介するマックス。ウォルターは、マックスを自宅に招待する。スケジュール管理と広報を担当するリンジー(イシ・ラボルド)を伴ってウォルターの自宅を訪ねたマックスは、彼から17年前に別れたかつての恋人レベッカ(ニーナ・ホス)の電話番号を聞き出す。

いまはファミリーネームは変わっていて有能な弁護士として成功しているレベッカに、リンジーを使って面会を申し込ませるが断られた。だが諦め切れないマックスは彼女の事務所を訪ねる。仕方なくロビーに下りてきたレベッカの態度は素っ気ない。朗読会の招待状と新作の小説を渡して引き下がるマックス。その新作小説は、レベッカと付き合っていた頃を題材にした物語だった。

だが、レベッカは朗読会にはいかず友人のレイチェル(ブロナー・ギャラガー)を誘ってクラシックコンサートを聴きに行きく。ウォルターからレベッカの住所を聞き出していたマックスは、朗読会の打ち上げを抜け出してレベッカが住む高級マンションを訪ねる。会いたくはないレベッカだが、興味津々のレイチェルがフロントのコンシェルジュにOKを出してしまう。

パートナーのクララの心の思いをよそにマックスは… (C)Ziegler Film/Franziska Strauss

翌朝、レイジーのスマホにレベッカからのメッセージが入っていた。土曜日にニューヨーク州の最東端モント―ク岬に行くという。即座に了解の返信をするマックス。モント―ク岬は、マックスとレベッカの思い出の地であり、17年前に別れた場所でもあった…。

二つの後悔が人生の
物語を形作るのか

作品の冒頭は、マックスがニューヨークの書店で朗読会するシーンから始まる。作品の中で最期を迎えようとしている父親の言葉として、「大事なことは二つしかない。取り返しのつかないことをして後悔すること。もう一つは、やるべきことをやらず後悔すること。…この二つが人生の物語を形作るのか?…」。

そして、父の言葉を聴いて、自分の人生でイメージに浮かんできた二人の女性。「一人は私が傷つけ。一人は失望させた」。だが、それを朗読するマックスの表情からは悔悟の痛みは感じられない。仕事の中心をベルリンに置き、妻クララはニューヨークで暮らす。彼女の暮らし向きには何の関心もないのだろうか。一方で、かつての恋人レベッカの才能と美しさに捨てがたい未練を顕わにするエゴイスト。理由もわからぬままマックスとモント―ク岬に置き去りにされたレベッカは、なぜ、マックスとその場所に行くことを決心したのだろうか。マックスと別れて一度結婚したレベッカ。愛することの深さと覚悟を人生から学んだレベッカの言葉に、傷つけてしまったことに気づいていても何もしないことのありがちさを思わされる。 【遠山清一】

監督:フォルカー・シュレンドルフ 2017年/ドイツ=フランス=アイルランド/106分/原題:Return to Montauk 配給:アルバトロス・フィルム 2018年5月26日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
公式サイト http://montauk-movie.com/
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