病気療養で休職していたサンドラ。復職直前に解雇を通達されたのだが… (c) Les Films du Fleuve - Archipel 35 - Bim Distribuzione - Eyeworks - RTBF(Televisions, belge) - France 2 Cinema
病気療養で休職していたサンドラ。復職直前に解雇を通達されたのだが… (c) Les Films du Fleuve – Archipel 35 – Bim Distribuzione – Eyeworks – RTBF(Televisions, belge) – France 2 Cinema

日々の暮らしに折り重なる心の機微を描きながら普遍的テーマをストーリーテリングするジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督作品。本作では、治療休暇明け目前に電話1本で解雇通告を受けた主婦が、夫に励まされながら職場の同僚たちに復職できるよう理解を求めていく物語。説得のための時間は2日と1夜しかない。人間の仕事さえパーツ化され関係も分断されていく経済優先の成果主義、競争社会のなかで、人と人の絆が人間の自律性を育んでいくストーリー展開に励まされる。

ソーラーパネルを作る会社に勤めるサンドラ(マリオン・コティヤール)は、心身治療のため休暇中だが、金曜日の午後に電話で突然の解雇通告を受けた。ショックに壊れそうな気持を、「泣いてはいけない」とつぶやきながら立ち直ろうとする。事の経緯と状況を確かめるため会社へ向かう。
アジア製品の進出などで業績が上がらずコストカットに取り掛かった会社は、サンドラが復職しなくても現場チーム16人で支障のない態勢になっていた。現場のジャン=マルク主任(オリヴィエ・グルメ)をとおして、サンドラの解雇に同意するか、あるいは、復職の場合1,000ユーロ(15万円程度)のボーナスは支給できない、どちらを選ぶかと提示され全員が解雇に同意したという。サンドラは、弁明の機会さえ与えられない解雇通告に異議を唱える。余裕のない経営状況を説明する社長だったが、月曜日に再度投票を行い、16人の過半数がボーナスの支給なしを受け入れるのなら復職を許すという妥協案を出してきた。
子ども2人を養い、ようやく購入したマイホームのローンを夫のマニュ(ファブリツィオ・ロンジョーネ)と共働きしながら返そうと前向きな気持ちになっていたサンドラ。みんなを説得して復職できても、充てにしていた収入を失う同僚たちと同じ職場で働いていけるものだろうか。また壊れかけていくサンドラを、マニュは復職が自分たちにとって必要なことを諭し、寄り添って励ます。土曜と日曜の週末、16人の同僚一人ひとりを訪ね、理解と支援を求める厳しいチャレンジに向かう…。

月曜日の朝、職場の仲間たちの投票が始まる… (c) Les Films du Fleuve - Archipel 35 - Bim Distribuzione - Eyeworks - RTBF(Televisions, belge) - France 2 Cinema
月曜日の朝、職場の仲間たちの投票が始まる… (c) Les Films du Fleuve – Archipel 35 – Bim Distribuzione – Eyeworks – RTBF(Televisions, belge) – France 2 Cinema

小さな町で就職先は少なく、外国人労働者も結構な割合で雇われている。いまの日本でも身近に感じられる状況設定。製造会社の厳しい状況や同僚たちの余裕のない生活の中でボーナスをあきらめることがどれほど厳しいことか、素直に感情移入できる。それだけにサンドラの解雇に同意したところで“悪い人”に決めつけることはできない。一人、ジャン=マルク主任が不気味な存在感を醸しているが、意地悪いという存在でもない。そこに、サンドラが一人ひとりと向き合えうことで、関係の分断ではなく互いを認め合う人と人の心がつながる素地が敷かれているのかもしれない。
サンドラを支え励ました夫マニュの存在。サンドラの言葉をまず聞こうとする同僚たち。病気で心の自我の折れかけたサンドラが、投票の結果を受けて自律への歩みに踏み出す表情で、「私、頑張ったでしょう」とマニュに電話する一言はとても印象的で心に残る。 【遠山清一

監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ 2014年/ベルギー=フランス=イタリア/95分/原題:Deux jours, une nuit 配給:ビターズ・エンド 2015年5月23日(土)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/sandra/
Facebook:https://www.facebook.com/Dardenne.cinema

2015年第87回アカデミー賞主演女優賞(マリオン・コティヤール)ノミネート、外国映画賞ベルギー代表作品。2014年第67回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品、第27回ヨーロッパ映画賞最優秀女優賞受賞、第61回シドニー映画祭グランプリ受賞作品ほか多数受賞・ノミネート。