ジェイミー(右)のサリンジャー探しを手伝うディーディー。 (C)2015 COMING THROUGH THE RYE, LLC ALL RIGHTS RESERVED

2019年1月1日は、青春小説の古典的名作『ライ麦畑でつかまえて』(原題:The Catcher in the Rye, 1951年刊)などで知られるジェローム・デイヴィッド・サリンジャー(J・Ⅾ・サリンジャー、1919年1月1日~2010年1月27日)の生誕100周年にあたる。いまも読み継がれているこの小説の主人公ホールデン・コールフィールドに共感し、自ら脚本を書き起こして舞台化を実現しようと奔走する男子高校生ジェイミーの夢を追う心情と成長を描いた青春ロードムーヴィー。プライバシーを守り続けた作家サリンジャーとの出会いは実現するのか、少年がこの冒険で見つけた“人生のヒントは”とはなにか。ベトナム戦争に疲れた当時のアメリカ社会を背景に描かれる切なさと明日を諦めない楽天的な若さ。原作とジェイミーの想いが絡み合いながら青春の懐かしい痛みと温もりが心を潤してくれる。

ホールデン・コールフィールドに共感した高校生が
原作『ライ麦畑でつかまえて』の舞台化に奔走する

1969年、アメリカ・ペンシルベニア州にある全寮制の名門男子校「クランプトン高校」1年生ジェイミー(アレックス・ウルフ)は、ティアニー先生(エイドリアン・パスダー)の研究室を訪ねる。愛読書『ライ麦畑でつかまえて』(原題:The Catcher in the Rye, 1951年刊)の主人公ホールデン・コールフィールドに共感し、自分こそがホールデンの真の理解者だと思い込んでいるジェイミー。ティアニー先生に、自分が書いた『ライ麦畑でつかまえて』の脚本を舞台化し自ら主役のホールデンを演じたいので研究課題として承認し支援してほしいと相談する。ティアニー先生は、原作者J・Ⅾ・サリンジャー(クリス・クーパー)から舞台化の承認を得ることを条件に支援を約束する。

ジェイミーは、そもそも何故クランプトン高校に入学したのかを説明するため、話を3年前の1966年に遡る。自宅の兄ジェリーの部屋。ジェイミーは、仲良しの兄ジェリーが大麻やLSDなどのドラッグを止めないことで口論になる。だがジェリーは、軍隊に志願してベトナム戦争に加担するという。その理由は「軍隊なら良質なマリファナが手に入る」からだという。ジェリーは、女の子と付き合うためにレベルを落として男女共学校に行くよりも、将来を考えて有名男子校のクランプトン高へ進学しろと強く勧めて出征した。

サリンジャーはジェーミーの舞台化の願いにどう答えたか… (C)2015 COMING THROUGH THE RYE, LLC ALL RIGHTS RESERVED

兄ジェリーの勧めを尊重してクランプトン高に入学したものの、ユダヤ系でジェイミーという女の子の愛称を使っているため運動部、特にフットボール部の男子学生らからは疎まれ、いじめにあっている。『ライ麦畑でつかまえて』の脚本を仕上げ、サリンジャーに舞台化の許可を得るため出版会社の編集者にアプローチするが読もうともしない。理由は、サリンジャーは自分の作品を戯曲化するのを拒んでいること。サリンジャーに手紙を書くが編集者はじめ関係者は詳しい住所を教えようとはしない。仕方なくサリンジャーが住んでいるニューハンプシャー州コーニッシュへ行って自宅を探そうと考える。

複数の高校が参加する演劇サークルで出会ったディーディー(ステファニア・オーウェン)は、『ライ麦畑でつかまえて』を愛読者で舞台化に賛同している唯一の友達。フットボール部のメンバーたちからひどいいじめを受けた翌日、ジェイミーは学校を退学してコーニッシュへ行く決心をする。憧れていた女子生徒を一目見てから町を離れようと、スーツケースを持って学校に行ったとき駐車場でディーディーに声を掛けられた。簡単に事情を話して退学してコーニッシュへ行くことを告げて別れた二人。だが、ヒッチハイクでコーニッシュへ行こうとするジェイミーの前に止まった車を運転してのはディーディーだった。自分の運転でサリンジャーの自宅まで乗せていくという…。

99%サドウィズ監督自身
の追体験ムーヴィー

小説『ライ麦畑でつかまえて』では、場面展開によってホールデン・コールフィールドが読者の語り掛ける。本作でも、ジェイミーが観客に自ら語りかけてストーリーを展開している。ジェイミーとディーディーのサリンジャー探しの後追いへと観客を誘う。サドウィズ監督自身、高校時代の1969年10月にコーニッシュへ行きサリンジャーを探し当てて出会っている。「映画館内でサリンジャーに会いに行くまでは85%、それ以降は99%が実体験」と語るほど、サドウィズ監督自身の自伝的な内容の作品。念願のJ・Ⅾ・サリンジャーとの出会いとその後のテレビドラマの脚本、監督、製作を務め、エミー賞やゴールデン・グローブ賞などを受賞、ノミネートされてきたキャリアの源泉が、長編映画初監督の本作には湧き出ている。【遠山清一】

監督・脚本:ジェームズ・サドウィズ 2015年/アメリカ/英語/97分/映倫:PG12/原題:Coming Through The Rye 配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES 2018年10月27日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー。
公式サイト http://raimugi-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/raimugimovie

*AWARD*
2016年:リッチモンド国際映画祭最優秀撮影賞受賞。ニューポートビーチ国際映画祭最優秀編集賞受賞。メキシコ国際映画祭審査員大賞受賞。ワールドフェスト・ヒューストンプラチナムレム賞受賞。デンバー国際映画祭ライジングスター賞受賞。クリーブランド国際映画祭最優秀作品賞受賞。フェニックス国際映画祭作品賞・脚本賞受賞。コロラド国際映画祭観客賞・ライジングスター賞受賞。オマハ国際映画祭観客賞受賞。