若々しくもパワフルにミリーとオビーを演じるヘル・ベリーとダニエル・クレイグ (C)2017 CC CINEMA INTERNATIONAL–SCOPE PICTURES–FRANCE 2 CINEMA-AD VITAM-SUFFRAGETTES

邦題と母子のような微笑ましいフライヤーの写真に引かれる。ハッピーなストーリーをイメージしがちだが、メインストーリーは1992年に起きたロサンゼルス暴動への発端と展開に巻き込まれていく黒人女性と彼女が養っている身寄りのない子どもたちの顛末。物語の実写と当時のニュース映像を挿入したリアルな展開が、韓国系移民と黒人の間の偏見や白人の黒人に対する差別意識の空気感をうまく演出している。自分の身は自分で守る権利と自由をかざして銃規制の進まない国。外圧は力で跳ね返すことを是とする根底には、異なる人種への嫌悪感が潜んでいるともいえるのだろう。社会にはびこる差別・偏見と底辺層から抜け出せない絶望感が絡み合い暴力と略奪へのエネルギーを噴出させる切なさ。行き場を失った子どもたちを自宅に引き取り、貧しくとも、ただ人間らしく微笑みあって暮らしたいと願っていた黒人女性ミリーの必死な生き様が、夢を失いたくない祈りのように響いてくる。

ドキュメンタリータッチ
なストーリー展開

ロサンゼルス(LA)のサウスセントラル。ミリー(ハル・ベリー)は、いくつもの仕事をこなしながら家族と暮らせなくなった高校生のジェシー(ラマー・ジョンソン)のほか7人の幼い子どもたちを引き取り育てている。貧しいが、言葉遣いやしつけに気を配り愛情を注いで明るく楽しく暮らそうとミリーを子どもたちも母親のように慕う。当然、騒がしい毎日に隣りの2階に住む白人のオビー(ダニエル・クレイグ)には、いつも文句を言われる。

1991年3月、2つの事件が起きた。一つは、仮釈放中の26歳のアフリカ系アメリカ人ロドニー・キングが、スピード違反で逃走しLA市警のパトカーとカーチェイスの挙句、逮捕された。逮捕時に数人の警官から激しい暴行を受けている様子が市民によって撮影され、その映像が世界中に広がり人種差別として大騒動になった。ロドニー・キング事件から2週間後、韓国系女店主トゥ・スンジャの店で買い物をしたアフリカ系アメリカ人の15歳の少女ラターシャ・ハーリンズが代金を支払う際に口論となり店を出ようとしたとき、スンジャに後ろから頭部を撃たれて死亡した事件。不穏な空気がサウスセントラルにも漂い始める。

(C)2017 CC CINEMA INTERNATIONAL–SCOPE PICTURES–FRANCE 2 CINEMA-AD VITAM-SUFFRAGETTES

ミリーは、街で母親が逮捕されて荒れている少年ウィリアム(カーラン・ウォーカー)も放っておけず自宅に連れてきた。同年代のジェシーは、感情的にキレ易く素行も悪いウィリアムを引き取ることを心配するが、ミリーの心情を理解しウィリアムを受け止めようと努力する。ジェシーの同級生ニコール(レイチェル・ヒルソン)が、行き場所が無くなった夜、不良たちに絡まれているところをミリーが自宅に連れてきた。片思いの感情をを抱いたジェシーは、内心穏やかではなくなった。

ラターシャ・ハーリンズ事件から8か月後、陪審員の意見判断を無視して女性裁判官のトゥ・スンジャへの判決は執行猶予付きの軽い刑になった。サウスセントラルに怒りの声が高まっていく。92年4月、ロドニー・キングを暴行した4人の警察官らに無罪の判決が下された。2時間後、サウスセントラルに暴動の口火が切られた。仕事で外出していたミリーは、子どもたちの安否が心配で自宅へ帰ろうとするが暴動の輪は広がっていく…。

丹念な取材で紡がれている
出来事と実在の人物モデルたち

ミリーは、家族も身寄りもない幼い子どもたちに、貧しくてごちゃごちゃした狭い家であっても自分が居ていい場所を与えて、しっかり足場を感じることができるホームを守ろと必死に働き、出来る限り楽しい時間を過ごそうと努力する。その有様を観て、騒がしさに文句を言いながらも見守ろうとするオビー。少しロマンスの香りを漂わす演出もあるが、大人の二人よりも暴動に巻き込まれていくウィリアムとジェシーの視点から差別や偏見と嫌悪感に引き込まれていく人間の弱さと様相が描かれているようにも見える。LAを丹念に取材し、本編に描かれるシークエンスやミリーなど人物のモデルも実在するという。

エルギュベン監督はトルコ・アンカラ生まれだが、生後半年後からフランスで暮らし、フランス国立映画学校を卒業しているが、フランス国籍を申請しても未だに認可されていない。エルギュベン自身、母国と思っていても認められない拠り所の無さを抱かされ続けている。その謂れのない疎外感にめげない希望の光はどのようなものなのだろうか。社会福祉機関に委ねることを拒み、人として幼い子どもたちと笑顔を交わして暮らそうとするミリーの姿に、その一筋を感じさせられる。 【遠山清一】

監督・脚本:デニズ・ガムゼ・エルギュベン 2017年/フランス=ベルギー/87分/映倫:PG12/原題:Kings 配給:ビターズ・エンド、パルコ 2018年12月15日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国ロードショー。
公式サイト http://bitters.co.jp/MySunshine/
Twitter https://twitter.com/MySunshine_jp