葛藤するアンナの内面に観る者を同化させていく方なシャーロット・ランプリングの演技が心に響いてくる 2017 (C) Partner Media Investment – Left Field Ventures – Good Fortune Films

ベルギーのある小さな都市。老境にあるアンナ(シャーロット・ランプリング)は夫(アンドレ・ウィルム)との二人暮らし。短時間ハウスメイドする倹しい生活だが演劇サークルやフィットネスクラブに通い自然体の日々を過ごしている。夫を献身的支えてきた関係が、夕餉や就寝前のマッサージなどの静かな慎ましい振舞からもにじみ出ている。だが、夫が犯したある罪によって刑務所に収監されたことで、しだいに生活のリズムが狂い始める。夫が犯した罪と息子との関わりなど目をそらしていた些細なことが、やがて大きくなりこころを覆う寄る辺なさと向きわざるを得なくなる。老境の哀しみのなかで何かを決意するアンナの姿に、ただ傍らにいて無言の対話へと誘わる思いが湧いてくる。歳老いていく平常に目を向けるとき、寂しさに留まっていてはいけない心の決意をアンナとともに見出したくなるドラマ。

【あらすじ】
演劇サークルでの練習を終え家路につくアンナ。夫と2人、アパートの小さなダイニングでいつものように煮込み料理を食べながらテレビの教会コンサートを観ている。会話のない食事のあと、夫の背中のマッサージを済ませて就寝。いつもと異なるのは、翌朝スーツを着た夫と一緒に警察署に出向き、手続きをするとそのまま収監された。

独り地下鉄の乗って帰宅したアンナ。寂し気に寄ってくる飼い犬に「あの人とはもう帰らないのよ」と語り掛ける。瀟洒な家の家事を手伝っているアンナ。女主人と盲目の少年との関係はいい。夫が収監されても、演劇サークルやフィットネスクラブに通いながら平穏に暮らそうとするアンナだが、しだいに小さな変化が積み重なり目に見えて生活のリズムが変わっていく。飼い犬はアンナから餌を食べなくなり新たな飼い主を探して手放すことにした。孫の誕生日にケーキを焼いて持っていくと息子は「来て欲しくないと言ったろう」と門前払いされ、地下鉄の駅のトイレで激しく慟哭するアンナ。

2017 (C) Partner Media Investment – Left Field Ventures – Good Fortune Films

夫との面会日。アンナは夫に心配をかけまいと思ったのか、孫の誕生パーティでは歓待され楽しかったと真逆の話をする。孫の話には満足そうな夫だったが、「息子は許せない。あいつのせいでこんな目に遭っている」と激しい言葉を吐く。いったい何があったのか、夫が犯した罪とは?。アンナもはっきり理解出来ていない。そんなある日、上の階の子どもたちの水遊びが原因で、アンナの部屋の天井から水が滴り落ちてきた。修理工事の際、動かした家具の後ろに貼りつられていた封筒。中には事件のカギとなる写真が入っていた…。

【見どころ・エピソード】
老婦人の淡々とした日常の行動が、徐々にサスペンスフルな展開を感じさせる演出に魅入られていく。台詞は少なく、主演のシャーロット・ランプリングの深い表情と演技が哀しみに引き込まれていく機微を描き出していく。ランプリングは2月7日開幕の第69回ベルリン国際映画祭で名誉金熊賞を受賞することが決まった。本作では孤独と哀しみのなかで、自分の人生を見つめ直して一歩を踏み出そうとする老境の女性の決意がリアルに伝わってきて身につまされる。【遠山清一】

監督:アンドレア・パラオロ 2017年/フランス=イタリア=ベルギー/93分/原題:Hannah 配給:彩プロ  2019年2月2日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
公式サイト http://tomoshibi.ayapro.ne.jp
Facebook https://www.facebook.com/tomoshibimovie/

*AWARD*
2017年:第74回 ベネチア国際映画祭ポンピ杯[最優秀女優賞](シャーロット・ランプリング)受賞。