映画「さよなら、退屈なレオニー」--自分探しに悩む17歳少女と大人たちの関係になぞらえた消失と出現
両親は離婚、母親と暮らしているが母親の彼氏は大嫌い。活気のない街で高校卒業が1か月後に迫っていても何をやりたいのか自分でも分からず、ただただ腹立たしい毎日を過ごしている17歳の女の子レオニー。レオニーの自分探しの日々を追うストーリー。だが、いわゆる青春映画にありがちなエネルギーを持て余して性的な関心や自暴自棄に陥るような“甘酸っぱい”味付けではなく、自分でもわからないイライラを母親と母親の彼氏、実の父親、ギタリストの中年男にまじめにぶつけて前を向こうとしている姿が、いまの時代の生きにくさを浮き上がらせている。少女が苛立ち捨て去る消失と孤独の闇に出現する一瞬の輝きを演出するラストシーンが印象的な作品。
【あらすじ】
カナダ・ケベックの港町で暮らす17歳の少女レオニー(カレル・トレンブレイ)。両親は離婚し父親は北部の町で仕事に就き数か月ごとに休暇で町に帰ってくる。いっしょに暮らす母親(マリー=フランス・マルコット)は、ラジオの人気DJの恋人ポール(フランソワ・パピノー)とレオニーの代父母を招きレストランで、レオニーの卒業一か月前の食事会を設けた。だが、お化粧もせず普段着のままで遅れてやって来たレオニーは不機嫌だ。挨拶もそこそこに化粧室からそのままレストランを出てバスに飛び乗ってしまう。
高校の仲間たちと街のダイナーでたむろしていたレオニーは、ひげ面の無口な中年男スティーブ(ピエール=リュック・ブリラント)に興味を持つ。別の日、同じダイナーに一人でやってきたスティーブに声をかけるとミュージシャンで母親と暮らしながら自宅でギターを教えているという。何をやっても長続きしないレオニーだが、スティーブにギターを教えてもらうことを決めガットギターを買ってスティーブの自宅に行く。口うるさい母親やラジオの王様を謳うポールたちとは違う物静かに受容してくれるスティーブに、レオニーは何をしたいのか自分でもわからずイラついていて、この街を出て行きたい自分の気持ちを素直に話せる。父親が工場のストライキで労働組合の代表者になったことから、いまは北部の町で働くことになったと心のわだかまりを打ち明けるレオニー。スティーブの年老いた母親と飼い犬のシーズとも仲良くなれて居心地のいい場所になっていく。
父親のシルヴァン(リュック・ピカール)が、2週間の休暇で北部の町から帰ってきた。空港に迎えに行きレオニー。「向こうで恋人はできた?」と茶化すレオニーに、「お前が恋人さ」と受け流すシルヴァン。母親が嫌がっていることを知りながら、シルヴァンの家でくつろぐレオニーは、スティーブに習っているギターを弾きながら、母親やポールと仲良くできれば楽なのにと思いながら心に湧き上がる憎しみに苛立ち怒りとぶつけてしまう悩みを打ち明ける。シルヴァンは、母親が亡くなった後に父親が起こしたある事件を話し、誰しも孤独の苦しみを抱えていることに気づくレオニー。
レオニーがシルヴァンの家に入り浸っていることが気にかかるポールは、養父らしく振舞おうと話しかけて来るが、その鼻持ちならないレオニーはポールに憎しみを抱いている理由を話し怒りをつけてしまう。ポールは、両親がなぜ離婚してシルヴァンは北部の町へ行くことになったのか、その理由をレオニーに話してしまう…。
【見どころ・エピソード】
セバスチャン・ピロット監督は、あるインタビューで「レオニーのストーリー以上に、何が映画の真の主題か」との質問に対して、「これは付きまとうシニズムとその治療薬である、大きな意味での愛についての映画です。…ある意味、今までの作品の中で一番政治的な映画だと思います。なぜなら世界がファシズムの新しい形へと向かっているのでは、という感情をもって作った映画だからです。時に希望の微光が灯るとき、それは断続的な光であるか、ほとんどの場合目に見えません。」と答えている。昨秋、第31回東京国際映画祭に出品されたときは、現代の「蛍はいなくなった」が上映タイトルだった。“青春映画”の舞台を借りているが、レオニーの両親とポール、スティーヴそれぞれの立ち居振る舞いを社会の政治的社会性になぞらえて観ると、原題の意味合いを味わえる仕上がりになっていることに頷ける。ちなみに、同映画祭では世界に紹介する若手俳優に贈る東京ジェムストーン賞の一人に、主演のカレル・トレンブレイを選出している。 【遠山清一】
監督:セバスチャン・ピロット 2018年/カナダ/フランス語/96分/映倫:G/原題:La disparition des lucioles、英題:The Fireflies Are Gone 配給:ブロードメディア・スタジオ 2019年6月15日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
公式サイト http://sayonara-leonie.com
Facebook https://www.facebook.com/映画さよならレオニー/-653958715042144/
*AWARD*
2018年:第31回東京国際映画祭ジェムストーン賞(カレル・トレンブレイ)受賞。(上映時タイトルは「蛍はいなくなった」)