チャップリンとヌール夫人の墓石の隣りで撮影された”遺体誘拐”シーン。チャップリンの遺族が全面的に協力している作品。 (C)Marie-Julie Maille / Why Not Productions
チャップリンとウーナ夫人の墓石の隣りで撮影された”遺体誘拐”シーン。チャップリン邸での撮影など遺族が全面的に協力している。 (C)Marie-Julie Maille / Why Not Productions

山高帽を被りだぶだぶズボンに外また歩きのドタ靴、ステッキ片手にちょび髭。チャップリンを描いてと言えば外せないトレードマーク。喜劇王という表現では収まらない笑いと涙で人間愛を映画に描いたチャールズ・チャップリンへのオマージュに溢れた逸品。「シェルブールの雨傘」のミシェル・ルグランが音楽を担当し、“ライムライト”のテリーのテーマなどをモチーフにチャップリン映画の芳醇な香りを堪能させてくれる。

アルジェリアからスイスに移民したオスマン・ブリチャ(ロシュディ・ゼム)は、刑務所から出所したベルギー人のエディ・リカルト(ブノワ・ポールブールド)を出迎えた。失業中のオスマンだがアルバイトで日銭を稼ぎ、妻ヌール(ナディーン・ラバキー)を小学生の娘サミラ(セリ・グマッシュ)を養っている。だが、ヌールは手術を要する腰の病気で入院中。それでも命の恩人、エディのために中古のトレーラーハウスを調達し、エディの荷物も保管して出所を待っていた。

はじめはエディを疎んじていたサミル。だが、本好きのエディにフランス語を教わるうちに気さくなエディに親しくなる。クリスマスの夜。失業中なのにエディが日本製の小型テレビをクリスマスプレゼントだと言って持ち帰ってきた。どうにか移るようになるとテレビニュースでは、チャップリンの死去(1977年12月25日)を報じ、特別番組を組んでいる。

エディに道化の才能を見いだしサーカス一座の一員にしたローザ。「ライムライト」のシーンを彷彿とさせる演出。 (C)Marie-Julie Maille / Why Not Productions
エディに道化の才能を見いだしサーカス一座の一員にしたローザ。「ライムライト」のシーンを彷彿とさせる演出。 (C)Marie-Julie Maille / Why Not Productions

しばらくしてエディは、オスマンが妻の治療費も借りられずに困っている窮状を見かね、チャップリンの遺体を“誘拐”して「チャップリンからお金を借りる」(身代金100万ドルを遺族に要求する)アイディアを思いつく。だが、オスマンは墓荒らしの誘いに乗らない。それでもエディは、「チャップリンは友達だ。放浪者の友達、移民の友達、貧乏人の友達。俺たち3人は友達だ。彼ならきっと助けてくれる」とあきらめない。

オスマンには5万フランはかかる治療費の目途がたたないのが現実。ある夜、寝ていたサミラが「ママと一緒に居たい」と言って泣きだした。たまらなく心を揺さぶられたオスマンは、エディの計画に乗る決意をした。

チャップリンの遺体泥棒は、1978年3月2日に実際に起きた事件だ。実際の事件のディテールは脚色されているが、犯行の2人組が移民の貧困層で結構慌てん坊タイプと伝えられている。視点を犯人の立場からに置き、チャップリンは弱者の友達だから助けてくれるというこじつけは身勝手そのもの。だが、その抜けた思い込みが犯人たちの才能と性格を引き出し、にっちもさっちも行かない情況から粋なカタルシスを味あわせてくれる。 【遠山清一】

監督:グザビエ・ボーボワ 2014年/フランス/フランス語/115分/原題:La rancon de la gloire 配給:ギャガ 2015年7月18日(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。
公式サイト http://chaplin.gaga.ne.jp
Facebook https://www.facebook.com/gagajapan/