ソ連では外国映画のスター声優だったヴィクトルとラヤ夫妻だが、イスラエルに移住したものの…

長年連れ添った妻は、人生の価値観を理解し共有していると信じる夫。だが妻は、生活環境の変化から自分たち夫婦間の落とし物に気づいてしまう…。ソ連が崩壊した1990年ごろの時代設定だが、現代の幅広い年代層の夫婦にも通じる普遍的なメッセージをフェデリコ・フェリーニ監督(2020年が生誕100周年にあたる)へのオマージュとアキ・カウリスマキ監督的なユーモアを隠し味にした夫婦物語。

ソ連崩壊でイスラエルに
移住したユダヤ系声優夫妻

物語は、ユダヤ系ロシア人のヴィクトル・フレンケルと妻のラヤが、イスラエルの空港に降り立った日から始まる。ソ連時代は、ハリウッドやヨーロッパから届く映画のロシア語吹き替えではスター声優の二人。’89年に出国制限が解禁されて以降、ユダヤ系ロシア人が雪崩のようにソ連からイスラエルへ移住していたので、ヴィクトルとラヤはイスラエルでも映画のロシア語吹き替えの仕事に期待して第二の人生をスタートしようと思っていた。

だが、現実は厳しかった。伝手をたどってもロシア語声優の需要がまったくない。低賃金労働に就くのは映画愛に生きてきたヴィクトルのプライドが許さない。だが、生活費は苦しくなっていく。思い余ってラヤは、求人広告で見つけたテレホンセックスの仕事に就いた。ラヤは、ヴィクトルには「電話で香水を売る仕事」と嘘を言い、“マルガリータ”の商売名で客の好みに合わせて自由自在に声を演じると人気は急上昇。ゲラと名乗る上得意までついた。

ヴィクトルも演劇などにチャレンジするが、上手くいかず映画を盗撮してロシア語吹き替えをレンタルしている裏事業に引き込まれてしまう。現場を映画館主に見つかり警察沙汰になるが、ヴィクトルが吹き替えた映画作品を知る館主は、ヴィクトルの身柄を引き取り、正規のロシア語吹き替え映画を作ろうとヴィクトルに声優出演を持ちかける。念願適い喜ぶヴィクトルだが、ひょんなことからラヤがテレホンセックスの仕事をしていることを知り大騒動に、ラヤは女性所長のデヴォラの家に身を寄せる。ラヤは、一度も会っていないがテレホンセックスの顧客ゲラに恋をしていた…。

映画愛から声優にこだわるヴィクトルは、海賊版業者に誘われる…

妻の心の声が届いたとき、夫は…

「映画は豊かな世界そのもの。声優はその案内人だ。」と映画愛を語り続ける夫ヴィクトルに、「私の人生も豊かにしてほしかった」と本音を吐露するラヤ。人生の価値観を共有し、夫婦生活を支え従ってくれていると信じていた夫だが、心の声を聴いていなかった。心のうちをさらけ出した二人は再スタートできるものなのか。どこの国の夫婦にも届いてほしい心の声が綴られていく。【遠山清一】

監督:エフゲニー・ルーマン 2019年/イスラエル/ロシア語、ヘブライ語/88分/英題:Golden Voices 配給:ロングライド 2020年12月18日[金]よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
公式サイト https://longride.jp/seiyu-fufu/
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*AWARD*
2019年:タリン・ブラックナイト映画祭脚本賞・最優秀アジア映画賞受賞。 2020年:バーリー国際映画祭監督賞・特別賞(女優部門)受賞。第10回北京国際映画祭作品賞ノミネート。