(C)2019 Aurum Film Bodzak Hickinbotham SPJ.- WFSWalter Film Studio Sp.z o.o.- Wojewodzki Dom Kultury W Rzeszowie – ITI Neovision S.A.- Les Contes Modernes

殺人罪で収監されていた20歳の少年が偽祭司を騙ってキリストにある赦しの使信を問い掛けるこのポーランド映画は、ヤン・コマサ監督が19歳くらいの少年が3か月間神父を騙っていた新聞記事を読んだことから誕生した。新聞記事を書いたマテウシュ・パツェビチュ記者が脚本を書いているだけに、少年院に収監されている若者たちの生態のリアルのみならず彼らが偽司祭を騙るのか、その心の動きと憧憬に触れていてエネルギッシュな慟哭が心に焼き付くような作品。

殺人犯ダニエル少年が
教誨師トマス神父を騙る

20歳のダニエル(バルトシュ・ビィエレニア)は第二級殺人罪で少年院に収監されている。看守の目を盗んでリンチが行われるときには、阿吽の呼吸で見張り役を務める。一方で、教誨師と務めるトマシュ神父(ルカース・シムラット)の信頼を得ているダニエルは院内のミサで助祭的な役割を担い賛美をリードする。仮出所も近く、聖職者になって神のもとで働きたいという願望を抱いているダニエルだが、トマシュ神父から「犯罪者は聖職者になれない。神に仕える道はほかにもある」と幾度となく諭された。だがある日、ダニエルに殺害された男の兄ボーヌス(マテウス・クワルトス)が少年院に収監されてきた。ダニエルは、凶暴なことでは名が通っているボーヌス恐怖心を抱くが、仮出所で危機を免れる。

トマシュ神父に紹介された製材所がある村へ行ったダニエルだが、村の教会に立ち寄ると祈っていたマルタ(エリーザ・リチェムブル)に神父の平服を見せて「神父だ」と言い、少年院での恩師トマシュ神父の名前を騙る。新任の神父と勘違いしたマルタは司祭のヴォイチェフ神父(ジイスラウ・ワルディン)に取り次ぎいだ。どうにか質問を取り繕うと、ヴォイチェフ神父は重いアルコール依存症のリハビリに行くため村を後にした。

平日は村人たちの告解、日曜はミサでの説教。告解はスマホで手引きを検索して応答し、説教は少年院でのトマシュ神父の説教の受け売りから徐々に自己流のミサを行っていく。砕けた語り口から説かれる傍らに下ってきておられるようなキリスト。村人たちは、ダニエルを「トマシュ神父様」と慕うようになる。ダニエルの行動も大胆で率直な言動で若者たちに親しく近づいていく。たむろする若者たちに混じりドラッグも吸う。村の一角にある6人の写真と献花台を不思議に思っていたダニエルは、若者たちから自動車事故で7人が亡くなり、酔っ払い運転していたスワヴェクだけが村人たちから恨まれ葬式も出されず埋葬もされていいないことを知る。だが、事故当時、スワヴェクからアルコールは検出されなかったことが公然の秘密にされている。未亡人のエヴァ(バルバラ・クルザジ)も誹謗中傷の中で村八分に遭っている。

トマシュ神父を騙るダニエルを演じるバルトシュ・ビィエレニア (C)2019 Aurum Film Bodzak Hickinbotham SPJ.- WFSWalter Film Studio Sp.z o.o.- Wojewodzki Dom Kultury W Rzeszowie – ITI Neovision S.A.- Les Contes Modernes

いまもスワヴェクと妻エヴァを赦さない村人たちの行為に疑念と憤りを感じたダニエルは、マルタを介してエヴァとも会うなど事故の事実を調べ始めると、製材所のオーナーでもあるそろうと動き始めると、なぜかバルケビッチ市長(レシェク・リホタ)までが蒸し返すなと警告してくる。そんな折り、新築された製材所の祝福式を頼まれたダニエルは、少年院にいたピンチェル(トマシュ・ジェンテク)が仮出所で製材所で働いている姿を見た。数日後、教会での告解に現れたピンチェルは、トマシュ神父を騙るダニエルを脅し、高額な金を要求してきた…。

酒、ドラッグ、暴力に生きてきた
少年が希求した聖への渇き

この物語は、3か月間神父を騙っていた少年の新聞記事と実話がもとになっているが、ポーランドでは神父を騙る事件は時折り起こるそうだ。物語の主人公ダニエルは、仮出所するとすぐ昔の仲間とバーで酒を飲みドラッグとセックスに耽る。悔い改めの欠片もみられないが、偽神父のダニエルは、自動車事故の加害者と遺族への噂だけでの偏見と裁きに対して事実を調べ、死者への葬儀の執行と赦しのために真摯に“神父”として生きようとする。それは罪にまみれて生きてきたダニエルが、赦しと聖への渇望を抑えきれないかのような強烈で衝撃的な結末へと展開していく。

近年、カトリック教会に限らずキリスト教界のなかで隠されていたセクシャルハラスメントやパワーハラスメントなどの事件が明るみにされ、映画化もされてきた。“聖”を纏い信徒が傷つき苦痛を強いられてきた現実があり、一方では自覚する“罪”を隠して聖職者を騙り死の陰の谷にまで十字架から下り信じる者の傍らで共に歩んでくださるキリストを語る犯罪者。ダニエルは、キリストの前に自らの罪の姿を曝け出す厳しい道を見せられていく。ダニエルが残したものを実らせようとする村人たちの姿が、カットバックして描かれるラストシークエンスの感動が心を衝いてくる。 【遠山清一】

監督:ヤン・コマサ 2019年/ポーランド=フランス/ポーランド語/115分/R指定:R18+/原題:Boze Cialo、英題:Corpus Christi 配給:ハーク 2021年1月15日[金]よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開。
公式サイト http://hark3.com/seinaru-hanzaisha/
公式Twitter https://twitter.com/seinaru_movie

*AWARD*
2020年:2020 ORL Eagle Awards 監督賞・作品賞・脚本賞・編集賞・撮影賞ほか 11 部門受賞。第92回アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート作品。第70回ベルリン国際映画祭2020ヨーロピアン・シューティングスター(バルトシュ・ビィエレニア)受賞。 2019年:第76回ヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門プレミア上映作品。第55回シカゴ国際映画祭主演男優賞(バルトシュ・ビィエレニア)受賞。第30回ストックホルム映画祭主演男優賞受賞。第31回パームスプリングス国際映画祭国際批評家連盟賞・インターナショナル長編部門最優秀男優賞受賞。