松村克弥監督プロフィール:
1963年生まれ。毎日映画社で数多くのドキュメンタリー作品の構成・演出に携わり、88年に「今なお苦悩は続く~土呂久公害70年~」で毎日映画コンクールの短編映画部門でグランプリを受賞。独立後の主な映画監督作品は、「オールナイトロング」(’92年、ヨコハマ映画祭新人監督賞受賞)、「サクラ花ー桜花最期の特攻ー」(2015年、東京都推薦映画)、「ある町の高い煙突」(’19年、シルクロード国際映画祭招待作品)などがある。

敗戦後76年目の夏を迎えている。アメリカが長崎市民に人類に向けた二発目の原子爆弾を投下。日本が敗戦してから12年後の物語。長崎出身の劇作家・田中千禾夫(たなか・ちかお)が、被ばくした浦上天主堂から聖母マリア像の石が盗まれる実話をもとに書き下ろした戯曲「マリアの首ー幻に長崎を想う曲ー」(1959年初演)が初めて映画化された。本作のタイトルを「祈りー幻に長崎を想う刻(とき)ー」との改題に込めた想いを松村克弥監督に聞いた。【遠山清一】

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◆原作について

ーー文学座創設にも参加した演出家でもある田中千禾夫の代表作ですが、初めて映画化することになったきっかけは。

松村 恥ずかしながら全く知らない戯曲でした。戦後70年企画で「サクラ花 桜花最期の特攻」で17歳の少年特攻兵士の記録を映画化したあと、戦後75年に向けて企画を話し合っているなかで、プロデューサーの亀和夫さんから初めて教えてもらい、少年特攻兵士と長崎で被ばくした女性という、底辺で生きる人たちと戦争を描き伝えたいと思いました。
また、僕自身はキリスト教信徒ではないですが、高校は明治学院卒業なんです。学校では、一応毎週聖書の時間がありましたから、田中千禾夫の世界観というか作品に描かれている空気感は何となく分かります。でも、当初思っていたほど信仰を重いテーマにしている作品ではないですよね。反戦・反核をテーマに撮った映画はたくさんあると思いますが、田中さんが戦争が終わって10年という時代設定も素晴らしいですし、当時の空気感と戦後10年を切り取った映画ってあまりないと思いました。社会が戦争を忘れて、高度成長へ進もうという時代と、(戦争の痛みと傷を)引きずっている人がいるという時代を切り取った映画を撮りたかったですね。

◆作品について

ーー原作と同じですが、鹿がクリスチャンで昼は白衣の天使で夜は娼婦という難しい役所ですね。

松村 これは鹿役の高島礼子さんとも話したのですが、マグダラのマリアのイメージです。鹿が聖母マリア像の石を集めることもミステリアスな要素がある。黒谷友香さんとは、忍には一途な鹿が聖母マリアのように思えるのかもしれないと話していました。

ーー隠れキリシタンの物語が描かれていますね。ラストシーンで岩永ツル役も演じた高島さんの表情が印象的でした。

松村 鹿のルーツとして長崎・浦上四番崩れの隠れキリシタンへの弾圧を挿入しました。原作にはありません。岩永ツルは拷問に耐えて大正時代まで生き、浦上天主堂で伝道した実在の女性信徒です。高島さんが演じたツルの最後のシーンは、本編のクランクアップの撮影でしたが、鹿とツルを演じたた高島さんの演技は想像を超えて素晴らしかったです。
ロケーション現場の長崎という土地が自然な演技を引き出してくれました。長崎出身の美輪明宏さんも聖母マリアの声で出演くださるなど、この作品の出演者、スタッフ様々なご協力を寄せてくださった人たちが「長崎を最後の被爆地に」との思いで一つになれた作品です。

ーー今年10月にアメリカで開催される第16回ロサンゼルス日本映画祭で公式招待作品として上映されることが決まりましたね。おめでとうございます。

(C) 2021 K ムーブ/サクラプロジェクト

松村 ありがとうございます。長崎での原爆を撮ったこのような作品をアメリカがよく公式招待してくれたなと、正直うれしいです。

ーー日本そしてアメリカや海外で上映され、「長崎を最後の被爆地に」との祈りが、一人でも多くの観客の方々にも届きますように。ありがとうございました。

監督:松村克弥 2020年/日本/110分/映倫:G/ 配給:ラビットハウス/K ムーブ 2021年8月20日[金]よりシネ・リーブル池袋、UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開。8月13日[金]よりユナイテッド・シネマ長崎、佐世保シネマボックス太陽にて先行公開。
公式サイト https://inori-movie.com
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*AWARD*
2021年:の第16回ロサンゼルス日本映画祭(10月4~10日開催予定)公式招待作品。