大企業の隠ぺいを地道に調査し探り当てていくロブ (C) 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

世界的な大企業デュポン社が、長年にわたって有害な有機化合物を大量投棄し環境汚染と有害性を隠ぺいしていた公害訴訟の顛末を映画化。自社実験によって有機物質の甚大な危険性を把握しながら隠ぺいしていた信じがたい不正を、主人公の弁護士ロブ・ビロットが探り当て実証していく過程が事実に基づきサスペンスフルに描かれている。一人の弁護士にとどまらず、最初に告発する高卒の農場主や地道な調査と訴訟を支える法律事務所の経営弁護士、ロブの妻と家族、集団訴訟の原告代表夫妻、汚染物質によって奇形児として生まれた被害者など、莫大な利益と多数の受益者効果を守るためにわずかな犠牲には目をつむろうとする企業の犯罪性への義憤につき動かされる人たちが、多大な犠牲を強いられても諦めない生き方に“他人事で済ませては、わが身を守れない”厳しい現実に覚醒させられる。

企業側弁護士を告発へと突き
動かした巨大企業の公害隠ぺい

1998年、オハイオ州シンシナティ市にある名門法律事務所の経営者トム・タープ弁護士(ティム・ロビンス)が、パートナー弁護士に就任したロブ・ビロット(マーク・ラファロ)を事務所のメンバー弁護士らに紹介する。企業側弁護士として仕事をこなすロブのもとに、ウェストバージニア州パーカーズバーグで暮らす祖母の紹介で農場主ウィルバー・テナント(ビル・キャンプ)が弟といっしょに訪ねてきた。面識はないが、テナントは大手化学企業デュポン社によって自分の土地が汚染されていると言いビデオテープを差し出す。ミーティングの途中で呼び出されたロブは、一度はウィルバーからの調査依頼を断ったが、祖母の紹介で来た彼らを無下にも出来ずパーカーズバーグの農場を訪ねる。荒れ果てた農場に牛はたった2頭しかいない。飼育していた190頭は汚染された池の水を飲み次々に病死。デュポン社が隣りの弟の土地を買取、契約に反して大量の化学物資を廃棄してから環境汚染が始まったとウィルバーは説明する。デュポン社と自治体の行政に訴えると環境保護庁の調査が行われたという。だが、ウィルバーは調査結果を知らされていない。ロブは、調査報告書を入手してウィルバーに確認させると、内容は全くの虚偽だと怒る。ウィルバーから提供されたビデオテープで環境汚染の実態を見たロブは、ウィルバーのために訴訟を起こす。

訴訟から1年後、ロブのもとにデュポンの廃棄物に関する開示資料が届いた。ロブは、資料に記された PFOA ”というワードを調べる。ロブは、 PFOA は 環境保護庁の規制外の化学物質 なの ではないかと推測し、さらなる資料の開示を裁判所に請求する。丹念に調べたロブは、PFOA ”が人体に有害な化学物質 、 ペルフルオロオクタン酸で、デュポン社“C8”と名付けていたことを突き止めた。一方、市の最大の雇用主企業であるデュポン社を相手取り訴訟を起こしているウィルバー夫妻と家族は、地元住民から白い目で見られていた。2000年、なおも粘り強く 調査を進めたロブは、デュポン が問題の 化学物質の危険性を 40 年前に知りながら、自社の利益の ために隠蔽し てきた事実を探りあてる。デュポンは発ガン性がある その物質を大気中や土壌に垂れ流してきた。

デュポンの過失は明白だが、巨大企業相手にこれ以上闘い続けるのは難しいと考えた ロブは 、 ウィルバーに和解を勧める 。だが、ウ ィルバーは「金なんか要らん。奴らに罰を与えろ!」と 叫んで拒絶し 、自分と妻がガンに 冒されている ことを告げる。 ロブの最大の理解者である妻サラ(アン・ハサウェイ) に も背中を押され て奮起した ロブは、 デュ ポン社の不正を世に知らしめるために、 内部文書を環境保護庁などの政府機関にリークし、公聴会で“ PFOA ”の危険性について証言するのだった…。

ロブを支える妻と子供たち (C) 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

エンドロールに流れる
♪I Won’t Back Down♪

本作のキャッチコピーにある“真実に光をあてるために どれだけのものを失う覚悟があるのか―”の言葉が、ラストシークエンスの屈しないロブたちの生き方を強く語っている。医療検査に応じた市民69000件におよぶの膨大なサンプルは、検査結果が提出されるまで長年月を要する。その間にも大企業側の反対訴訟や市民への働きかけに、市民も原告団に加わった人たちの心は揺らぎ打ち砕かれそうになる。ロブを支えてきた妻サラだが、事務所の弁護士の仕事に手がつかなくなるほど反対訴訟に対抗するロブの収入は激減し、家族のコミュケーションまでもギクシャクしていく。政府や行政をも取り込んでいく容赦ない大企業側の攻勢にも、自分の身は自分で守るしか道が残されていない原告らとともに諦めない、引き下がらずに弁護と反証をもって前へ進もうとする。

エンドロールに流れるジョニー・キャッシュが歌う♪I Won’t Back Down♪。“I will not back down”、諦めない!引き下がらない! 大きな格差社会のなかにあっても義憤に突き動かされる人々への励ましと、これからの人々に託すメッセージソングのように印象深く心に残る。 【遠山清一】

監督:トッド・ヘインズ 2019年/アメリカ/126分/映倫:G/原題:Dark Waters 配給:キノフィルムズ 2021年12月17日[金]よりTOHOシネマズ シャンテほかロードショー。
公式サイト https://dw-movie.jp