ヨナタン(左)とサムはまじめに「面白グッズ」をセールスするのだが… (C)Roy Andersson Filmproduktion AB
ヨナタン(左)とサムはまじめに「面白グッズ」をセールスするのだが… (C)Roy Andersson Filmproduktion AB

ロイ・アンダーソン監督の本作は、「散歩する惑星」「愛おしき隣人」に続く“リビング・トリロジー”最終章。オーソドックスな“マットペイント”技法によって構図、配置、配色などすべて計算し尽くた絵画的映像美。定位置に据えたカメラが1シーン1カットせ長撮りする。まとめられた39シーンから醸し出される寓喩の妙は、終末的だが自由意思を与えられている人間に立ち返るべき希望が示されているようで印象深い作品だ。

オープニングシーンが暗示的で印象に残る。博物館の一室に置かれた、小枝に止まる鳩のはく製の展示物を見入る男。絶滅した恐竜の白骨模型の顔が、隣室入口にからその男を見つめているようにも思える。男ははく製を見ていたようだが、はく製たちに観られ続けていたのかもしれない。昨年の東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門に出品された時の上映題は、タイトル原題の趣きを表現した「実存を省みる枝の上の鳩」であったことを思い起こさせられる。

タイトルロールの後、「死との出会い」について3つのシークエンス。その1は、キッチンで夕食を作っている妻。夫は頃合いを見てワインのコルクを開けようとするが心臓発作で倒れる。その事に気づかないまま、妻はハミングしながら楽しそうに食事を作り続ける。その2は、臨終間近の老女が天国へ持っていくためにと言って宝石やお金を入れたバックを握ったまま放そうとしない。息子たちは、無理やりバッグを引っ張るが寝ているベットが引きずられるほど執着する母。その3は、フェリーのカフェテリアで食事を注文した男が心臓発作で倒れた。代金は済んでいる。料理はどう処分するか。カフェのウェイトレスが「どなたか、いかがですか。タダです」と声をかけると、一人の男が手を挙げ、ビールだけ引き取って飲み始める。人間は死に突然襲われる。だが、人間の営みは変わらずに続く。

現代のバーの店内に、馬に乗ったまま国王カール2世が入ってきた… (C)Roy Andersson Filmproduktion AB
現代のバーの店内に、馬に乗ったまま国王カール2世が入ってきた… (C)Roy Andersson Filmproduktion AB

狂言回し的に登場するサムとヨナタン。人が喜ぶようにと「面白グッズ」を売っているセールスマン。“吸血鬼の歯”“笑い袋”新製品の“歯抜けオヤジ”のマスク…。だが、ヨナタンが試しに着けても客は笑わないし、売れない。商品を納品した店に集金に行ったが、「売れたが、金はない。」といって取り合わない。二人とも体調を悪くし、宿にしている簡易宿泊施設で寝込んでいると、仕入れ業者が集金にやって来た…。

楽天的なサムとナイーヴで落ち込みやすいヨナタンが繰り広げるユーモラスなセールス物語に、カフェバーで出会う人たちや町の人々の人生が絡み合っていく。だが、現代のバーに18世紀のスウェーデン国王が行進の途中に乗馬したまま入り込んできたり、植民地時代の黒人たちが巨大な真鍮製のドラムに入れられ火でローストされるブラックユーモアなシークエンスも挿入されている。一貫した展開がないような物語の糸が織りなす人間の変わらない日々の営みと心の欲望。心の疲れたヨナタンが、サムに吐露する「だれも神に悔い改めようとしない。なんと恐ろしいことだ」ということばが耳に残る。 【遠山清一】

監督:ロイ・アンダーソン 2014年/スウェーデン=ノルウェー=フランス=ドイツ/スウェーデン語/100分/原題:En duva satt pa en gren och funderade pa tillvaron 配給:ビターズ・エンド 2015年8月8日(土)よりYAESU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://bitters.co.jp/jinrui/
Facebook https://www.facebook.com/jinrui.movie

*Award*
2014年第71回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)受賞。第27回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門出品作品(上映時タイトル『実存を省みる枝の上の鳩』)