映画「ロスト・キング 500年越しの運命」――もう簒奪者ではない 実録リチャード三世の名誉回復
ウィリアム・シェイクスピア(1564年4月26日(洗礼日)~ 1616年4月23日)が初期に書いた史劇「リチャード三世」は、背骨が曲がった自分の身体を嘆き、幼い二人の甥たちを幽閉殺害して王位を簒奪した残忍非道な悪王の悲劇的な末路を描いている。百年戦争後のヨーク家(白薔薇の記章)とランカスター家(赤薔薇の記章)の間でイングランド王執権争いが30年間続いた薔薇戦争。リチャード三世(1452年10月2日~1485年8月22日)は敗れたヨーク朝最後の王としてに実在したが、テューダー朝以降はイングランドの王としては認められていなかった。
本当に王位簒奪の悪王だったのか。リチャード三世の汚名を雪(そそ)いで名誉回復を目指すリカーディアンの市井の一婦人が、墓所は所在不明もしくは無いとされてきたリチャード三世遺骨を発見・発掘するまでの事実に基づくミステリー。
戦死から527年後に
駐車場から遺骨発見
エジンバラに住んでいるシングルマザーのフィリッパ・ラングレー(サリー・ホーキンス)は、会社のプロジェクトチームから外され、代わりに新入社員の女性がチームメンバーに入った。フィリッパは、持病のME(基礎疾患のない極度の倦怠感を特徴とする障害)が仕事に影響を与えたことはないと男性の上司に抗議したが聞き入れられなかった。別居中の夫ジョン(スティーヴ・クーガン)は、10代になる二人の息子の今後のためにも仕事は辞めるなとフィリッパを諫める。
仕事にやりがいを失ったフィリッパは、息子とシェイクスピア劇「リチャード三世」を観劇したとき、リチャード三世(ハリー・ロイド)を演じる俳優と目が合い、語り掛けてくる何かに打たれるフィリッパ。本当にシェイクスピアが描くような、背骨が湾曲したのコンプレックスから幼い王位継承たちを殺害し簒奪した残忍非道な人物なのか。観劇したリチャード三世の幻影がフィリッパに現れ、フィリッパの問いかけに応える(他者には見えずフィリッパが対話するように独り言を話しているようにしか見えない)。フィリッパは、リチャード三世の歴史を記録を著書を読み漁り、リチャード三世の名誉を回復しようと心が燃えていく。リカーディアンの歴史協会「リチャード三世協会」の会員になると、戦死した遺体は後年川に流されて墓所はないとされてきたリチャード三世の墓所捜しにイングランド・レスターシャー州の古都レスターへ幾度も行き、大学の講義や諸説語られてきた場所へ現地調査する。そしてグレイフライヤーズ修道院跡地が市営駐車場になっていることを突き止め、そこで予約駐車(Rreserved parking)の頭文字「R」の所で、フィリッパは激しい直感に心を動かされる…。
実話による歴史ミステリー謎解きと
発見後の人間ドラマのおもしろさ
2012年9月5日、レスター大学考古学チームの支援でグレイフライヤーズ修道院跡地からリチャード三世の遺骨が発掘された。フィリッパが、墓はないと語られ続け、歴史的評価は最悪で謎の多いリチャード三世の名誉回復に人生の喜びを感じ続け、地道に一つひとつ謎解きをしていくストーリー展開がおもしろい。さらには、地道に努力し東奔西走してきたフィリッパの名前が、発見者リストに記録されずすべての努力が大学側の栄誉にされそうになる展開にも引き付けられる。存在を抹殺せず正当に評価することの大切さを物語ってもいる。 【遠山清一】
監督:スティーブン・フリアーズ 2022年/108分/イギリス/映倫:G/原題:The Lost King 配給:カルチュア・パブリッシャーズ 2023年9月22日[金]よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。
公式サイト https://culture-pub.jp/lostking/
*AWARD*
2022年:第47回トロント国際映画祭プレミア上映。