突然の病、不慮の事故など不条理と思える出来事に遭遇した時、誰の心にも芽生えるのが、「なぜ、こんな目にあわなければならないのか」という疑問だろう。その疑問が、人を苦しめる。自分を責め、社会を恨み、神を呪い、命の輝きを失わせることにもなる。

本書は、順天堂大学医学部附属順天堂医院に創設した「がん哲学外来」や「メディカル・カフェ」を通じて多くの患者さんに寄り添い、その疑問と苦悩に向き合ってきた著者が、聖書「ヨブ記」を通して綴(つづ)るエッセイである。

旧約聖書に記された「ヨブ記」は、正しい人ヨブが次々と災禍に見舞われ、死に瀕(ひん)する苦しみを経験する中で、「なぜ、こんな目にあわなければならないのか」という疑問の答えを見出そうとする物語だ。そこには全財産と愛する子どもを奪われ、さらに重い病を負ったヨブの苦しみ、ヨブを励まそうとする友人とのかみ合わない対話、沈黙する神への不満など、人生の不条理に直面した時にあらわになる人間の現実が描かれる。

病を負う者の苦しみや孤独、そして希望。病や理不尽な出来事に苦しむ隣人を慰めることができるのは誰か、どのように接すればいいのか。ヨブの妻の姿からは、病に寄り添う家族の難しさも理解できる。

多くの患者さんを見つめてきた著者の深い洞察が込められた文章は、病に対して、また病を患う隣人に対して持っていた私たちの固定観念を覆し、日常の中に見落としていた大切な真理に気づかせる。「苦しみや悲しみは解決しない。でも解消する道は必ずある」といった数多くの言葉に励まされる。

本書をゆっくりと少しずつ、繰り返して読む中で、病を負う者も、病の隣人に寄り添う者も、暗闇の中にあってなお光を見出し、自分を喜び、隣人とつながり、神が与えた命を愛する一歩を踏み出すことができるだろう。
評・平林知河=日本長老教会 菊名西教会牧師

 

 

『なぜ、こんな目にあわなければならないのか がん病理学者が読む聖書「ヨブ記」』
樋野興夫著、いのちのことば社・フォレストブックス
1,760円税込、四六判

 

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