映画「ネクスト・ゴール・ウィンズ」――FIFAランキング万年最弱チームからの脱却

国際サッカー連盟（FIFA）主催ワールドカップ2014大会のオセアニア予選で、アメリカ領サモア代表チームは2001年4月11日の予選オーストラリア戦で０対31の惨敗を喫した。国際Ａマッチでの最大の得点差はいまも破られていない。アメリカ領サモアの代表チームは、その後も公式国際マッチで無得点敗戦が続き、1994年にFIFA加盟以来30試合全敗のランキング最下位で「世界最弱の代表チーム」と称される。この全敗記録を止め、万年最下位から脱却へ導いたオランダ人監督とアメリカ領サモア代表チームとの勝利を目指した軌跡をコメディタッチで描いた物語。

史実を基にしながらもワイティティ監督の笑いを盛った脚本と演出は、生活文化も個性も異なるお互いが心を通じ合い、目標に向かって勝ち得ていく気持ちを出し合って前に進み、最後まであきらめないことの大事さをあらためて教えてくれる。

おおらかなサモア文化とキリスト教社会の
中で技術優先から信頼と愛情の関係尊重へ

オランダの名門アヤックスのリザーブチームからサッカー選手のキャリアを積み、アメリカへ移住後、プロ選手を引退しアンダー20代表チーム監督を務めていたトーマス・ロンゲン（マイケル・ファスベンダー）だが11年5月に解雇通告を受け、アメリカFIFAはアメリカ領サモア代表チーム監督を提示される。ワールドカップ2014大会の予選は半年後に迫っていた。

トーマスを喜んで迎えたアメリカ領サモアサッカー協会会長のタビタ・タウムア（オスカー・ナイトリー）は、何よりも「１点を獲ってくれ」とトーマスに熱望する。しかし、おおらかな選手たちだが欧米文化の白人監督の就任にシラケる。さらにキリスト教が根付いていてもサモア文化に受け入れられているファファフィネ（男性だが女性のような第三の性）のジャイヤ（カイマナ）が有力な選手でいることに戸惑うトーマス。だが、身体の力の高いジャイヤは高いＤＦ能力を示し、初めてのトランスジェンダーとしてFIFAにも選手登録を認められている。

ジャイヤは、31失点したキーパーの汚名を晴らしたいと必死なニッキ―（ウリ・ラトゥケスフ）は「その試合で64セーブしている」とトーマスに反論し、チームは選手同士の心が通じ合っていると告げる。徐々に選手たちと向き合えるようになったトーマスは、初戦のトンガ戦に臨み自分の心の重荷になっている出来事を選手たちに打ち明けてフィールドへ送り出す…。最弱といわれようが、島の人たちも代表チームを粘り強く応援し続けている。サッカー愛をとおして、信じることの強さを感じさせてくれる映画。【遠山清一】

監督・脚本：タイカ・ワイティティ　2023年/104分/イギリス＝アメリカ/映倫：G/原題：Next Goal Wins　配給：ウォルト・ディズニー・ジャパン　2024年2月23日[金]より全国ロードショー。
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＊AWARD＊
2023年：第48回トロント国際映画祭ワールドプレミア上映。第36回東京国際映画祭ガラ・セレクション部門出品。