新しいキリスト教文化の可能性

「あなたに寄り添わせてください」

10年前、神戸市のブレス・ユア・ホーム株式会社(広田信也代表取締役=写真=)は、この呼びかけでスタートした。教会の枠を超え、信仰のあるなしも超えて、徹底的に隣人愛を実践する、クリスチャン企業だ。広田さんは牧師でもある。長年トヨタで研究開発に携わり、退職後牧師に転身した後に起業した。

事業内容はキリスト教葬儀や牧師派遣、結婚記念日などイベントのプロデュース、高齢者向けに傾聴サービス、定期的な訪問サービス、ボランティア派遣、終活セミナーなど多岐に渡る。人助けを第一義にニーズに応えてきた10年間、振り返れば最も宣教効果があったのは「話し相手・付き添いサービス」だったという。高齢者に限らず、日本の多くの人たちが孤独を抱えて苦しんでいた。この働きを特化して2021年に立ち上げたのが「一般社団法人善き隣人バンク」だ。

医療や介護でカバーしきれない「心の痛み=スピリチュアルペイン」に「傾聴」を通じて寄り添う、同社が草分けとなるこの働きは、今や登録スタッフ50人、毎月約150件に対応するまでに拡大し、同社の中心的な働きになってきた。

代表理事を務める広田さんはこれを「人の人生に伴走するような働き」と、語る。何かしてあげるというのではなく、相手の立場に立って話を聞く。これがすべてと言える働きには、全国に協力者がいる。9割はクリスチャンで、牧師も多い。相談は訪問や電話。2、3人のグループで一人の人に寄り添っていく。

「日本の教会はすばらしい。全国の教会にそういう仕事をしたいというレベルの高いクリスチャンがおられます。皆さん善き隣人でありたいと尽力してくださっています」

人の痛みは多種多様だ。トラウマに苦しむ人、家族を失った人、中には教会につまづいてやり場のない怒りを抱えている人もいる。誰にも話せないで自分を追い込んでいた人が、継続的な傾聴によって徐々に自己受容が進み、苦痛が軽減したり解消していくという。

この働きが、家族ぐるみの看取りからキリスト教葬儀につながることがある。牧師はエンディングの働きのエキスパート。余命いくばくもない人に、牧師なら生前から寄り添え、天国への方向を指し示しつつ、残される家族を慰めることができる。広田さん自身牧師として看取りから携わることもある。心を込めて寄り添う日々を経て、本人や遺族がキリストにつながることも多い。

同社はクリスチャンでなくても、教会を離れていても、キリスト教葬儀に対応している、、、、、

2024年04月07日号 05面掲載記事)