映画「Dear ダニー 君へのうた」--43年後手にしたジョン・レノンからの手紙
「もし、あの時…」こうなっていたら、自分の生き方は変わっていたかもしれない。人は、そう思いたくなる出来事に数多く遭遇しているかもしれない。それほど、人生には立ち直れる機会が幾度もあるのではないかと思わされる。
2010年、英国のフォークミュージックシーンでは知られているスティーヴ・ティルストンは、売れ始めたころのインタビュー記事をジョン・レノンが読み、自分宛に書き送っていた手紙を43年後に手にした。ティルストン自身、ジョン・レノンが自分宛に手紙を書いていたことを全く知らなかったこの事実に、脚本家でもあるダン・フォーゲルマン監督がインスパイヤーされこの物語が生まれた。
ロック歌手のダニー・コリンズ(アル・パチーノ)は、年老いても往年のヒット曲でワールド・ツアーを興行できるスター。だが、ショービジネスに成功したものの、ダニーは仕事にも生活にも覇気がない。そんなダニーの誕生日パーティのあと、マネージャーで親友のフランク(クリストファー・プラマー)が、オークションで入手したプレゼントを贈る。それは、ダニーが売れ始めたころ、「有名になり、金持ちになると自分の音楽が変わってしまうようで怖い」とインタビューに答えた記事をジョン・レノンが読み、ダニー宛に雑誌社へ書き送った手紙だった。だが、雑誌の編集者は、将来オークションにかけて値がつくだろうと考え、その手紙をダニーに手渡さなかった。
「金持ちで、有名になれることで、君の音楽は堕落しない。音楽と自分自身に忠実であれ」と励ますジョンの言葉を読み、ダニーは当時の自分の想いを取り戻した。
浮気性の若い婚約者に化別れを告げ、フランクにワールドツアーをキャンセルさせ、かつて自分が捨てた女性の一人息子との和解を願ってニュージャージーへとダニーは旅立っていく。
女性は既に他界していたが、探し当てた息子のトム(ボビー・カナベイ)は結婚し、妻サマンサ(ジェニファー・ガーナー)は第二子を妊娠している。だが、かわいい7歳の孫娘ホープ(ジゼル・アイゼンバーグ)は多動性障害児で学校に受け入れられるか悩んでいる。それよりも、トムは母親に苦労を掛け、長年ほったらかしにしてきたダニーを受け入れる気持ちなどない。そんな、トムの心情にお構いなく、ダニーはホープの学校探しをマイペースで進めていく。
ダニーを受け入れられないトムだが、ホープの教育のために力を尽くす姿には素直に感謝する。だが、そのトムは白血病を発症し精密検査を勧められていた。トムは、出産間近のサマンサを気遣い告白できないでいることを知ったダニー。トムと家族のため、何年も書いていない新曲づくりに取り掛かる…。
ダニーとトムの深くて強い絆。ニュージャージーのホテルで接客マネージャーを務めるメアリー(アネット・ベニング)との大人の恋というか、温かな友情。アカデミー賞俳優たちのしっかりした演技が、老齢であっても人生を変え、より深みのある生き方を指し示していく。
ダニーが、変わろうとする節目の折々に、「真夜中を突っ走れ」や「夢の夢」などジョン・レノンのオリジナル音源がふんだんに使われていて、センスのいい音楽映画でもある。エンドクレジットに流れる「インスタント・カーマ!」のリフレイン“Well we all shine on. Like the moon and the stars and the sun”(私たちはみんな、月や星や太陽のように輝いている)というメッセージは、自分の人生を自分らしく生きたいと願う人たちへのジョン・レノンから励ましとしていつまでも耳にこだまする。 【遠山清一】
監督:ダン・フォーゲルマン 2015年/アメリカ/107分/映倫:PG12/原題:Danny Collins 配給:KADOKAWA 2015年9月5日(土)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEAほか全国ロードショー。
公式サイト http://deardanny.jp
Facebook https://www.facebook.com/deardanny.jp