キリスト教のハラスメントに関する日本語の著作がほとんどない現状の中で、クリスチャン心理学者としてこの問題に長年取り組んでこられたダイアン・ラングバーグさんの著作が日本語で読めることをとてもうれしく思います。特にハラスメントを理解する上で基本となる「権威」(パワー)とその乱用ということについて、教会という状況に即して解説してくださっているこの本は大変貴重であると思います。

彼女は、教会の牧師や責任ある立場の人たちを告発する被害者の声が、組織を守りたい人たちによって隠され、消され続けてきたという事実を明らかにし、被害を訴えている人の声を聴くということの重要性を強調します。「今日の犠牲者たちの声、『クリスチャン』の社会で虐げられて踏みにじられた人々の声は、実は神の民へむけられた神ご自身の声です」と。どのような人も尊重し、どんな話にもきちんと耳を傾ける―基本的なことのようでいてなかなかできていないのが現状ではないでしょうか。

ちなみに、この本をお読みになる時に疑問に思うことがあるかもしれません。それは日本語の表題で使われている「パワハラ・セクハラ」という言葉が、本の中では一切出てこないという点です。「ハラスメント」という言葉は実は労働の現場で使われる用語なのです。日本では、それを拡大的に解釈して使用しています。しかし、この著作の背景である米国では、教会の中で行われる嫌がらせ行為は総じて「アビューズ」―「虐待」という言葉が使われます。「虐待」と聞くととても悲惨なことが思い浮かぶかもしれません。でもそれが現実です。

ラングバーグさんは、教会の中の「アビューズ」の問題と解説だけにとどまらず、旧約聖書の預言者さながら、私たちに厳しい言葉を篤(あつ)く語られています。この本を福音のメッセージとしてぜひ手にとってお読み頂きたいと思います。消されてきた声―神の声から、新しいメッセージを聴くことができるでしょう。
評・城倉由布子=日本バプテスト連盟ハラスメント対策委員会委員長

 

『パワハラ・セクハラとキリスト教会 権威とその乱用』
ダイアン・ラングバーグ著、
前島常郎訳、ヨベル
1,980円税込、四六判