【レビュー】『ゲーテはすべてを言った』『見せよう イエスさまを 福音に生きる子どもたちを育む』
1月に第172回芥川賞を『ゲーテはすべてを言った』(朝日新聞出版、千760円税込、四六判)で受賞した、鈴木結生さんは、福島県郡山市出身で、牧師の息子であり、福岡県の西南学院大学大学院に在学中だと各報道が伝える。毎日新聞1月15日報道によれば、鈴木さんは子どもたちだけで司会・説教する「子ども礼拝」で育った。子どもたちの可能性を思わされるエピソードだ。
同書は、ゲーテのみならず多数の思想家・文学者、そして、聖書からの引用に満ちている。主人公というべきゲーテ研究者は、家族、身辺にキリスト者が多く、教会の場面もごく自然に登場する。主人公は、ゲーテからの引用とされる言葉の由来を探求するが、聖書やキリスト教の主題も考察していくことになる。「引用」という行為そのものも問われ、「言葉」「真実」「信仰」「表現」の問題も生じる。数年前に、日本のキリスト教、人文学界隈を騒然とさせた「引用捏造事件」も下敷きにされ、リアリティーがある。言葉を巡る家族、人間ドラマとしても興味深い。
同書の印象的な一節を引用しよう。「…自分こそは完全な色を作ることができる、とそう思うかもしれない。一つの言から成った世界を一つの書物に帰そうとする詩人のように。しかし、そのためにはまず、色が取り分けられていなければ。そして、混沌から単色を取り出す『バーラー』の御業はただ神だけに許されている…」。この引用が、本書のどのような位置にあり、どのような文脈の中で、語られているかについては、本書に実際に当たって確かめてほしい。
子どもに聖書を語るのは簡単ではない。その悪戦苦闘をまとめたのが『見せよう イエスさまを 福音に生きる子どもたちを育む』(ジャック・クランペンハウワー著、楠望訳、いのちのことば社、2千530円税込、四六判)だ。子どもの個性・成長、世俗文化、「福音の環境」づくり、祈り、などについて具体的な体験エピソードを交えてまとめる。メッセージ例では、子どもの様子、反応、著者の思いなどを描写し、臨場感があり、陥りやすい失敗なども説明される。子どもたちに語るべきは道徳的教訓や「宗教」ではなく、福音そのものであることを繰り返し強調。各章にQ&Aと、教師、親、祖父母、すべての人、に向けた実践的アドバイスがある。