不敬事件、非戦論…内村鑑三が闘ったのは、「国家」だけではなく、弟子や身近な「教会」、「組織」の仲間たちとだった。『内村鑑三 闘いの軌跡』(関口安義著、新教出版社、 7千975円税込、A5判)は、芥川龍之介、矢内原忠雄の研究をへて、内村にいたった著者の集大成だ。詳細な記録証言を引用し、「闘い」の視点で内村の全生涯を振り返る。最大の闘いは、聖書との闘いだったかもしれない。内村は、「研究のための研究」としての「聖書道楽」ではなく、聖書を「迫害の血を以て書かれた書」として向き合う。「信仰の為に戦はずして聖書は解らない」と強調した。

 

「ちいろば(小さいロバ)先生」として知られる榎本保郎の生誕100年、「アシュラムセンター」、50周年となる。死の直前で未完に終わった「百万人の福音」誌の連載が『エッケ・ホモ(この人を見よ)キリストの生涯』(いのちのことば社、2千200円税込、四六判)として刊行された。記述はエルサレム入城直前で終わり、ロバは登場しないが、イスラエル訪問の経験も踏まえ、聖書世界を再現・解釈する。戦争体験、戦後社会の不安なども参照される。約50年前の説教を読む意味は何か。まえがきで、子であり、アシュラムを引き継ぐ恵氏が、「真剣な信仰の問い」「復活の希望」を挙げ、あとがきで、孫であり、論壇で活躍する空氏が、「現代の問いと地続き」と述べ、国内外情勢を憂えつつ、「開かれた」読みを促す。

 

『子ロバの召命 弱さのための黙想』(成成鍾著、よはく舎、千320円税込、四六判)はルカ19章28~38節を中心に、旧新約や中世の神学者を参照し、ロバの特徴などから、汚れ、未熟さ、低さ、鈍さ、平和、日常、統合の道を説教。各項目に黙想の勧めがあり、呼吸法や家族、職場、教会などの共同体の視点を提示。「日常を神と共に生きる」ことを勧め、平和という家=共同体の土台への展望を示す。

 

『静まりと魂のセルフケア 人生のふり返りと生活の中の霊性』(太田和功一著、あめんどう、2千530円税込、四六判)はクリスチャン・ライフ成長研究会(CLSK)や牧会塾、牧会ステーションでの霊性実践をエッセイ風の読みやすい文章でまとめた。思い巡らすこと(第1部)、静まること(第2部)、牧会者のセルフケア(第3部)などでは実践例を項目ごとに紹介。先人から(第4部)はビュルキ、フランクル、ラーナーなどから日常生活を聖なるものとする実践を学ぶ。