【書評】再洗礼派の「非暴力」を生き方の問題として 評・南野浩則『非暴力主義の誕生』
本書は、宗教改革運動の一つで、スイスに源流を持つ再洗礼派の歴史を描いています。新書版でコンパクトにまとめられてはいますが、さまざまな出来事が具体的に述べられており、再洗礼派の変遷を理解するのに最適です。
再洗礼派の根底にあるのはイエスの弟子という生き方です。イエスは非暴力による平和を目指したと理解される中で、再洗礼派がこの平和観においてイエスに従おうとしたことは自然な結果でした。しかし、非暴力をはじめとする再洗礼派の生き方はヨーロッパ社会の秩序に合致するものではなく、迫害と圧迫を受けることになります。再洗礼派の人々は抵抗するために暴力には訴えず、むしろ逃げることを選び、自らの生き方を貫くことができる新天地を求めていきました。
現代では再洗礼派への物理的な迫害は起きていません。しかし、暴力を前提とした平和維持の考え方が世界の常識である限り、非暴力は社会的な責任を負わない主張であると非難され続けています。本書は、このような再洗礼派の平和を無抵抗主義(ノンレジスタンス)と評価して、自らの論の軸に置いています。
本書は、ノンレジスタンスの非暴力を主張の問題ではなく、再洗礼派の生き方の問題であると語ります。その生き方は、再洗礼派にのみ伝統として踏襲されていくだけではなく、暴力と殺りくに満ちた世界に平和をもたらす可能性があることを本書は述べます。それは良心的兵役拒否や修復的正義といった形で実際に結実してきましたが、より広い形で再洗礼派の平和観はこの世界に貢献できるでしょう。
本書は再洗礼派の平和に「抵抗」を認めません。しかし、この見方は議論の余地があります。暴力に妥協していれば、再洗礼派は自らの生き方を維持することはできなかったはずです。この妥協しない姿勢は「抵抗」として評価できると考えます。非暴力抵抗主義ともいうべき生き方が再洗礼派には備わっています。
(評・南野浩則=福音聖書神学校)
『非暴力主義の誕生 武器を捨てた宗教改革』踊共二著 、岩波書店
1,034円税込、新書判