【書評】説教と対談で、教会と牧師の物語を立体化 評・関野祐二 『自分自身と群れ全体とに気を配りながら』
壮大な神の物語に書き込まれた教会の物語、その教会に37年仕えた牧師の物語、この二つを重ね合わせ、横からも裏からも光を当てて立体視させる、ユニークな退任記念説教集が世に出た。
横から、というのは、この説教集が、物語の舞台となったカンバーランド長老キリスト教会高座教会の歴史に伴走する教会生活を送り、NHK宗教/歴史番組制作のプロとして活躍した信徒の立場から、松本雅弘牧師への三つの鋭いインタビューを導入とする三部構成だからである。説教集でありながら、このインタビューこそ続く説教や論文の数々が生み出された背景を描き出すのだ。
裏から、というのは、松本牧師の長年にわたる牧会の苦悩や課題への取り組み、その中で感じ得た思いが、包み隠さず語られている、いや、引き出されているからである。この点に関しては、先に出版された高座教会編『イエスを見つめながら――カンバーランド長老キリスト教会高座教会七〇年史』(新教出版社、2020年5月)をぜひ併読されたい。
本書を構成する三部とは、「信仰へのメッセージ」(洗礼・入会準備会テキスト)、「信仰からのメッセージ」(礼拝説教)、「キリストの教会を形成する」(神学論文、講演、エッセー)で、読者は松本牧師がどのように前任者からバトンを受け取り、個々人を信仰/洗礼へと導き、信徒を養い、働き人を育て、教会の課題と向き合って来たか、つぶさに知ることができる。
とりわけ第三部に収録された女性長老の聖書的根拠、ウェストミンスター信仰告白から出発し三度にわたり信仰告白を改訂してきたカンバーランド長老教会の歴史考察は貴重で、「常に改革されつつある教会」の根幹を見事に可視化している。
終わり近くの研修会講演録で、ある講師の「君たちは工事中だ」とのことばが紹介されている(302頁)。牧師の内に、また信仰共同体の内に工事を始めた方は、完成者なるお方でもあり、いつか工事は完成する(ヘブル12・2)。そんな希望を具体的実例として読者に抱かせる、教職/信徒の必読書だ。
(評・関野祐二=聖契神学校校長)
『自分自身と群れ全体とに気を配りながら
メッセージ集』
松本雅弘著、新教出版社、2,200円税込、A5判
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