日韓条約締結から60年になる今年、その問題点とキリスト教会の課題について考えるNCC公開学習会「日韓条約60年とエキュメニカル運動─その歴史と課題─」(日本キリスト教協議会〔NCC〕主催)の第1回目が6月7日、東京・新宿区の日キ教会・柏木教会とオンライン併用で開催された。講師の徐正敏(ソ・ジョンミン)氏(明治学院大学名誉教授)が「戦後日韓キリスト教関係の変化─エキュメニカル運動と『東京発1973年韓国キリスト者宣言』を中心に─」と題して講演した。【中田 朗】

最初に、「NCCJ(日本キリスト教協議会)もNCCK(韓国キリスト教教会協議会)もエキュメニズム(キリスト教諸教派一致運動)をベースに作られた団体。その流れの中で『1973年韓国キリスト者宣言(以下・東京宣言文)』は、日韓キリスト教関係史の中で象徴的な出来事だった」と語る。
「もともと日本と韓国の宣教は、エキュメニカルムーブメントから始まった」とし、その宣教エキュメニズムは基本的には失敗に終わり、その後、日本は国家主義的なキリスト教に、韓国は民族主義的なキリスト教に傾いたと、戦前の日韓教会を分析した。
戦後、日本の教会は「一致団結して戦争に協力」から「平和の福音」に論点を変更したが、「戦争に対する反省、謝罪の言葉は全くなく、20年間沈黙を守った」と語る。67年、鈴木正久総会議長の名で「第二次世界大戦における日本基督教団の責任についての告白」が発表されたが、「これ以降、在日コリアンや沖縄の人々など、マイノリティーと共に生きるというふうに流れが変わった。その意味でシンボル的な出来事だった」と評価する。
その上で、「東京宣言文」に触れた。「72年10月、朴正煕(パク・チョンヒ)軍事政権は『10月維新』を断行した。韓国民主化運動勢力は大きな衝撃と挫折を経験するが、そんな中、NCCKを中心とするキリスト教エキュメニカル共同体は、様々な方面で民主化闘争を企画。池明観(チ・ミョンガン)、呉在植(オ・ジェシク)ら東京を拠点にしていた韓国キリスト教民主化運動の主導者たちは、NCCKの中心勢力と連携し、73年5月20日付で東京宣言文を作成。これは韓国で秘密裏に流布され、その後世界に発表された」
東京宣言文は、⑴民主主義復活のためあらゆる形態の国民的連帯を樹立、⑵キリスト者の連帯を強化、殉教もいとわない、⑶世界教会との、キリストによる共同体の紐帯(ちゅうたい)、という実践決議を提示。社会変革のため、貧しく苦しむ隣人と共に暮らし、真理を証し、死に至るまで民衆の解放のために政治的抑圧に抵抗し、歴史変革に参加することが、イエス・キリストの『メシヤ国』を宣言するものだと確信する、と強調する。
この宣言文の作成、発表、拡散の過程で、「日本のキリスト者の協力が大きかった」と指摘。「日韓両国、特に日韓キリスト教の関係は、以後どのような状況下でも稼働可能な友好、善隣、協力のチャンネルを持つようになった」
最後に、今年6月3日に李在明(イ・ジェミョン)大統領が選挙で当選したことを受け、こう結んだ。「尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権から李政権に移ったら、日韓関係は難しくなるのではとよく聞かれる。だが、本当の日韓関係は、政治レベルでなく庶民レベルで構築されたものだ。日韓のキリスト教はそれを主導してきた。今後、政治レベルでの困難は多少あるかもしれないが、日韓教会のホットラインはいろいろあるので、心配しなくていいと思う」
第2回は7月5日午後2時から、新宿区西早稲田の日本キリスト会館4階会議室とオンライン併用で開催される。講師は山口明子氏(元NCC幹事)。申し込みはURL https://ncc-jkt60.peatix.com/から。
