映画「くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ」--自分らしさを認め合えた熊とねずみの出会い
自分の希望と異なる進路を強要されてひとりぽっちなくまとねずみが出会い、互いに心の絆を強くする絵本童話が原作。だが、キャクターは描き起こされ水彩画の趣きはジブリ作品にも通じて日本でも親しまれるように思う。反目し合う2つの社会で生きることの「大切なメッセージもしっかり語られていて、子育て世代の大人にもハートウォームな世界へと導いてくれるアニメです。
鋭い前歯を駆使してねずみたちが地下に築いた社会。孤児院で暮らすセレスティーヌ(声:宇山玲加)は、絵を描くことが大好きな女の子。院長先生は、毎晩のように地上に住む意地悪くまはねずみを生きたまま食べる恐い生き物だと子どもたちに話して聞かせる。だが、セレスティーヌは、想像たくましくくまの絵を描きながら、「くまはそんなに意地悪なの?」と質問し、院長の神経を逆なでしてしまう。
地上に住むくまの社会。アーネスト(声:玉野井直樹)は、町はずれの丘に建つ一軒家で暮らしている。音楽やパフォーマンスが好きで演奏するのだが、なかなか日銭は稼げずいつもお腹を空かせている。
歯科医師で子どもたちに丈夫なくまの歯を毎日集めさせている所長は、成果の上がらないセレスティーヌに「50本集めてくるまで帰ってくるな」と厳命する。地上に出て、お菓子を売って子どもたちを虫歯にし、向かいのお店で差し歯を売って儲けている夫婦を見つけたセレスティーヌ。だが、差し歯を売っている妻に見つかって騒がれ、あわてて飛び降りたらゴミ箱の中の落ちて出られない。おまけに、夫のゴミ出しでふさがれてしまう。
ゴミ箱を漁るアーネストに見つかり、危うく食べられそうになるセレスティーヌ。だが、おとなしく食べられたりはしない。もっと美味しいものがたくさんあるところを知っていると言って、お菓子屋の地下倉庫に誘い、妙な貸し借りをアーネストに持ちかける…。
絵描きになりたいのに、歯科医になるよう所長に命じられている孤児のセレスティーヌ。音楽家になりたかったが家族に反対され家を出て一人で暮らしているアーネスト。互いにひとりぼっちの心が、助け合ううちに寄り添っていく。そのお互いの助け合いが、地上と地下の異文化社会には理解されず、大騒動に発展する。先入観や思い込みで忌み嫌う対立関係。だが、知り合っていけば親愛の情と信頼が培われていく。ストーリー展開のおもしろさと愛の深さを気づかせメッセージは原作の世界をしっかり伝えている。
同時にノミネートされた「アナと雪の女王」にアカデミー賞長編アニメーション映画賞を獲得されたが、完成度の高いアニメ・ファンタジーなだけに、もっと日本で話題にされてよい作品ではないだろうか。 【遠山清一】
監督:バンジャマン・レネール、ステファン・オビエ、バンサン・パタール 2012年/フランス/日本語吹き替え版/80分/映倫:G/原題:Ernest et Celestine 配給:ギャガ・プラス 2015年8月22日(土)より渋谷イメージ・フォーラムほか全国順次公開。 オープニング館のシアター・イメージフォーラムでの上映は9月18日(金)までの予定。大阪・シネマート心斎橋では9月19日(土)から上映予定。
公式サイト http://ernest.gaga.ne.jp
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*AWARD* 2014年第86回アカデミー賞長編アニメーション映画賞ノミネート作品、アニー賞アニメーション映画賞・監督賞ほか全6部門ノミネート作品。2013年セザール賞アニメーション賞受賞、ニューヨーク国際児童映画祭グランプリ受賞。2012年カンヌ映画祭監督週間特別賞受賞、第20回フランス映画祭上映作品ほか多数。